5日も図書館に通うと宿題はあっけなく片付いてしまった。口ほどにもない奴らめ。少しはこの秀才のボクを手こずらせて欲しいものだ。さあ、ここからは受験勉強だ。地域でもなかなかの進学校が第1志望だったので、私は塾の夏期講習を申し込んでいた。一日中塾に籠もり、『天までとどけ2』はビデオに録画。そんな日々が続き、8月25日を過ぎた頃、塾の休憩時間に友達が「いくつ覚えた? 百人一首!」とわけのわからないことを聞いてきた。「え! 出たじゃん、『百人一首覚える』って宿題! やってないの?」「……あー、大丈夫、大丈夫。だいたい覚えてるし……」。大ウソ。ソラで言えるのは「田子の浦ゆ~」のみ。響きが面白いから言えるだけ。「ゆ~」って、いいよね。あと5日ある。なんとかなる。
ならなかった。
和歌ってヤツは焦れば焦るほど頭に入ってこない。ざけんな、藤原定家。休み明けの国語の授業でいきなり百人一首のテストが出た。上の句に続いて下の句を書き込むというかなりハードなもの。「田子の浦ゆ~」頼みで臨んだら用紙には「田子の浦に~」とある。あー、ミスプリかな、と思って覚えてる通りに「富士の高嶺に雪は降りける」と書いた。返ってきた答案には先生の赤ペンで「それは万葉集の歌ですね。百人一首は『富士の高嶺に雪は降りつつ』です。△です」としてあった。ざけんな、山部赤人。
驚いたのは適当に書いたのに「田子の浦ゆ~」(本当はに~)以外に7つ正解してたこと。あと、苦しまぎれに20くらい「さよならなみだくん またあうひまで」と書いたら、「先生も『天までとどけ』観てます」とメッセージが添えられてたこと。
あと高校には受かったが、それからは坂道を転がるように成績が下がっていって、1年後には“頭の良くない川上くん”になっちゃったこと。
※週刊朝日 2019年9月13日号