
大ヴェテランが新境地を示した作品として、後世に残るだろう1枚
The Composer / Don Friedman
近年も「100ゴールド・フィンガーズ」「東京JAZZ」のようなフェスティヴァルや、ジャズ・クラブ出演のため毎年のように来日しているドン・フリードマン。リーダー作ばかりでなく清水ひろみとの共演原盤制作も含め、日本との関係をますます深めており、今や親日家ヴェテラン(1935年生まれ)の代表的ピアニストと言えよう。
本作は昨年、ドイツのジャズ祭《ジャズバルティカ》でのステージを収録したライヴ・アルバムだ。
91年創設の同祭はバルト海沿岸の各国が連携する運営により、年々プログラムを充実させながら今年20周年を迎えた。フリードマンにとって同祭とのコネクションは、渡りに船の状況で実現した経緯がある。創設者で芸術監督のライナー・ハーマンが60年代からフリードマンのファンで、知り合いだったベーシストのマーティン・ウインドを通じて接触。それが奏功し、2004年にトリオで初出演した。その時の模様は地名に由来する“サルツァウ・トリオ”名義でアルバム化され、翌年には生誕70周年記念コンサートが企画されている。
そして昨年。フリードマンの新たな魅力をクローズアップするため、ハーマンは特別なプロジェクトを用意した。トリオ+弦楽四重奏(SQ)の編成である。作品としてはフリードマン初の編成であり、フリードマンの自作曲ばかりで構成したハーマンのアイデアは、年齢的にはキャリアの終章に差し掛かっているが、そんな世間の目を跳ね返すに十分な創造性を発揮できるミュージシャンとしてのポテンシャルをアピールしたい、との意図があった。
2004年バルティカ・ライヴの再演曲である#1は、ピアノ独奏で始まりトリオ+SQでスインギーに進行。愛妻のために作曲した#2は導入部からワルツ・テーマへと見事な流れを描く美旋律曲。#5はストリングスとの相乗効果により、感動をもたらしてくれる。
SQ(現在は“弦カル”の呼称が関係者の間で一般的)を起用する音作りは、各国で盛んで、日本ではピアニスト、ヴォーカリストが近年好んで弦カルを起用している。ラスト・ナンバーの#8ではゲストのゲイリー・スムリアン(bs)が登場し、14分に及ぶ予想できない展開によってステージのハイライトを現出。大ヴェテランが新境地を示した作品として、後世に残るだろう1枚だ。
【収録曲一覧】
1.35 West 4th Street
2.Waltz For Marilyn
3.Friday Morning
4.Almost Everything
5.Summer’s End
6.Red Sky Waltz
7.Memory Of Scotty
8.Delayed Gratification
ドン・フリードマン:Don Friedman(p) (allmusic.comへリンクします)
マーティン・ウインド:Martin Wind(b)
ジョー・ラバーベラ:Joe LaBarbera(ds)
2009年7月ドイツでライヴ録音