「経済産業省は、韓国の半導体やディスプレイ業界の邪魔をすれば、日本の業界が復活できると思って今回の措置を採ったのですか?」
中華料理が並ぶテーブル越しに、韓国政府関係者A氏は、深刻な顔で私に問いかけた。つまり、徴用工、慰安婦などの歴史認識問題や貿易管理という安全保障問題だけでなく、その裏には、産業政策としての隠れた意図があるのではないかという質問だ。
私は、「そんな馬鹿な」と思ったが、一方で、「いや、でも、ちょっと待てよ」と自問自答しながら、次のように答えた。
「普通に考えれば、そんな馬鹿なことは考えてないと思います。半導体や液晶・有機ELパネルでは、経産省の政策は大失敗でした。最近も経産省傘下のファンドが大金をつぎ込んだ日の丸プロジェクトのジャパンディスプレイ(日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶ディスプレイ部門を統合した国策企業)が破たん寸前で、よりによって、中国企業の傘下に入る予定です。しかも、それもまだ確定ではなくて、中国に見捨てられれば倒産。そういう状況を考えれば、今さらサムスンやLGに勝てるはずはないということは、誰でも簡単にわかりますよね。ただ、ちょっと気になるのは、最近、霞が関の官僚の質が劣化していることです」
先方は、「うん、うん」と頷きながらその先を促す。そこで私は、解説を続けた。
「先日、菅(義偉)官房長官のブレーンで国家戦略特区を動かしているアドバイザーに聞いた話ですが、彼らが、昨年、世界の先進地域を視察した結果、『日本がこんなに世界から遅れているとは思わなかった。経産省の話なんか聞いていてもダメだ。もう、ほとんど追いつくのは無理かもしれない』という悲観的な結論に至ったというのです。そんなこと、とっくの昔にわかっているのかと思ったら、そうではなかったというのが、私にはすごくショックでした。しかも、彼らから見ると、経産省はもっと遅れているというのです。そんな話を聞くと、確かに、経産省が、韓国の邪魔をして日本の半導体やディスプレイ業界の復活を狙っているという可能性がないとは言えませんね。常識で考えれば、時代錯誤もいいところで、『馬鹿じゃないの?』という話ですが」