悔しさをかみしめながら、ハンクへの想いを馳せる
Last Recording / Hank Jones -The Great Jazz Trio-
ハンク・ジョーンズが5月16日に91歳で大往生した時、永遠に来るはずがない悲報がついに届いてしまったと感じたのは、ぼくだけではないと思う。
老舗冠トリオのリーダーとして30年以上活躍し、毎年のように来日してきた親日家。大御所であっても偉ぶらないどころか、親しみやすく謙虚な人柄で関係者の間でもファンが多い。ぼくも3回のインタヴューを通じて、音楽家・人間の両面でハンクの魅力を体感していた。
ここで個人的なエピソードを紹介したい。一昨年の「東京JAZZ」の関係者パーティーでのこと。壇上でスピーチを行ったハンクに声をかけて立ち話。すると別れ際、「食事中にじゃまして悪かったね」。すでに立食が提供されていて、ぼくがお皿を片手に持っていたことを見ての一言だった。もうそんなお気遣いは無用ですよ、と心の中で呟きながら、多くの尊敬を集めるハンクへの敬愛を深めたのである。
前置きが長くなったが、何かの機会に発表したかった事例なのでご容赦願いたい。
さて本作はハンクの最期の来日時である本年2月に、東京で録音されたトリオ+ゲストのアルバムだ。当初はザ・グレイト・ジャズ・トリオ名義の新作として企画されたが、ハンクの急逝を受けて作品名を含めて変更された経緯がある。2月の「ブルーノート東京」でのパフォーマンスを生で観た印象は、とても数ヵ月後にこの世を去るとは思えなかった。その数年前に体調を崩すも、見事に復帰したことが自分の中でハンクの健在ぶりを強くする要因となったのは間違いない。
アルバムはロイ・ハーグローヴがゲスト参加した「チュニジアの夜」でスタート。直前のBNT公演に飛び入りしたことがきっかけとなって、レコーディングにも協力したという。作曲者ディジー・ガレスピーを踏まえれば、制作者にとって渡りに船とも言えるハーグローヴの参加は、楽曲の表現世界を確実に拡大。以下これまで何度も演奏し、録音してきたであろう楽曲に、新たな生命を吹き込む。
バド・パウエルの人気曲#5が好例だ。パウエルに似た演奏をすることも1つの価値。でもハンクは自分流を貫く。そしてクローズアップしたいのがドラマーのリー・ピアソン。昨年からGJTのメンバーになっている若手は、トニー・ウイリアムスから始まるGJTの歴史を継承しており、ここでの好相性はGJTにおけるハンクの新展開を感じられるだけに惜しいと思う。
今後の発展が断絶されてしまった悔しさをかみしめながら、ハンクへの想いを馳せることを本作の味わい方の1つとして提案したい。
【収録曲一覧】
1. A Night In Tunisia
2. Opus De Funk
3. Cantaloupe Island
4. The Summer Knows
5. Cleopatra’s Dream
6. Someome To Watch Over Me
7. Begin The Beguine
8. Fly Me To The Moon
9. My Foolish Heart
10. Stompin’ At The Savoy
11. The Very Thought Of You
ハンク・ジョーンズ:Hank Jones(p) (allmusic.comへリンクします)
デヴィッド・ウォン:David Wong(b)
リー・ピアソン:Lee Pearson(ds)
ロイ・ハーグローヴ:Roy Hargrove(tp)
2010年2月 東京録音