若い頃、セトウチさんも三島さんにファンレターを書いていますよね。偉くなる人はファンレターにちゃんと返事を書くんですね。僕もエリザベス・テーラーにファンレターを出したら、僕の切手コレクションに役立てて! と世界各国のファンからの手紙にはってある切手をむしり取って、たくさん送ってくれましたよ。

 ところで、話変りますが、夏至の前後から毎日悪天候で、せっかくの一年で一番昼が長い時期が、一日中陽が照らない暗アーイ日が続いてせっかくの真夏気分がだいなしです。セトウチさんが以前、「東山にきれいなお月さんが出ているわよ、見てごらん」と東京に電話があったけれど、成城には東山もないし、あの日は東京は雨。そーいうことは文学では通じるんですかね。わからん話でした。

 また別の日、東京のセトウチさんのマンションの近くで火事があって、「ヨコオさん、紅蓮の炎が、夜空に舞って凄いわよ、見てごらん!」。ハイ、我が家からは見えません。

 こーいうセトウチさんは何んと呼べばいいんですかね。早トチリでもないし、あわてん坊でもないし、オッチョコチョイでもないし、相手を自己同一化しちゃうんですかね。文学者の脳髄と感性は、わかりまへんワ。

 セトウチさんといると、離れていてもそーですが、よくズッコケルことに出合います。秘書のまなほ君もセトウチさんの面倒を見るのは大変だと思います。そのことがすでに人間修行をしているとあきらめて、ガンバッテ下さい。僕もセトウチさんによって随分修行しました。お釈迦様も洞窟の中で瞑想するのではなく、世俗の見える所で修行することこそ悟りへの道だと言っています。まなほ君も釈迦道と諦めて、いつか尼僧にでもなって下さい。ほな、さいなら。

週刊朝日  2019年8月30日号

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