ドライブシミュレーター (愛宕病院提供)
ドライブシミュレーター (愛宕病院提供)
白質病変が進む脳の様子 (朴医師提供)
白質病変が進む脳の様子 (朴医師提供)
高齢者運転八策  (週刊朝日2019年8月30日号より)
高齢者運転八策  (週刊朝日2019年8月30日号より)
高齢者運転者が関係する差最近の主な事故や動き  (週刊朝日2019年8月30日号より)
高齢者運転者が関係する差最近の主な事故や動き  (週刊朝日2019年8月30日号より)

 本誌(6月21日号)で高齢者運転の事故問題を取り上げると、読者からの反響が相次いだ。多くは免許の自主返納を促すべきとの意見。だが、公共交通機関の限られた地域では、運転せずに生活は成り立たないとの切実な訴えも届く。こうした人たちからハンドルを握る機会を奪わずに交通事故を防ぐにはどうしたらよいのか。運転科学に基づいて脳のリハビリをする病院も現れた。ジャーナリストの桐島瞬氏が、その実態を聞いた。

【高齢者が事故を起こさないヒント】「高齢者運転八策」はこちら

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「過疎化の進む場所に一人で暮らす私にとって、車がなくなれば本当に死活問題です。地域事情に配慮せず、高齢者だから運転免許を返納せよとの主張にはとても困惑しています」

 便箋(びんせん)5枚にびっしりと書き込まれた投書が編集部に届いた。書いた田井和民さん(93)が暮らす岡山県高梁(たかはし)市中井町は、人口700人ほどの高齢化が進む中山間地域だ。2人の子供は東京暮らし。3年前に妻を亡くして以来、独り身での生活を続ける。

 昨年12月の運転免許更新で認知機能検査をパスし、新たに3年間の免許証を手に入れた。毎週のように軽自動車のハンドルを握る。

「車は必要不可欠です。普段、買い物に行く最寄りのスーパーや病院まで20キロ以上離れていて、車でも往復1時間かかります。バスでも行けますが、実用的ではありません。町へ向かう便は朝7時台に1本。帰り便は夕方4時台から6時台にかけて3本のみ。近くの小学校が休みの日は午後1時台の1本に減ってしまいます。市が運行する福祉バスも週1便のみです」

 タクシーなら好きな時間に行けるが、経済的な負担が大きい。

「往復1万3千円はかかります。週1回の利用でも毎月のタクシー代は5万円以上。年間60万円は必要です。車の維持費を考えれば、マイカーを手放して浮いた分でタクシーを使えとの意見もありますが、軽自動車のほうが出費は抑えられます。公共交通が少ないこの辺りでは、私に限らず高齢者が運転するのは普通なのです」

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