つまり「日本のテレビ視聴者は、日本のテレビ報道は信用できないほどレベルが低いということを知ってからテレビに向かい合う必要がある」と“国境なき記者団”は言っているのである。

 私が韓国の民主化運動の人たちと共に行動した時代に、1980年の光州虐殺事件について現地の光州で韓国の市民からくわしく話を聞いた時には、夜に、車座になって十数人の韓国の知識人と、朝鮮の酒マッコリを飲み交わしながら、どのようにすれば韓国と日本が、「米軍の軛(くびき)」から解放されるかを語り合った。その時、私がふと「この中で牢獄に入れられた人がいますか?」と尋ねると、まるで当然のように、全員が笑顔で手を挙げたのである。活動する知識人であれば、ほとんどの人が牢獄生活を体験していた。それが1988年のソウル・オリンピック後、盧泰愚(ノ・テウ)大統領~金泳三(キム・ヨンサム)大統領時代の韓国であった。この人たちが現在までの韓国の民主化を引っ張ってきた主役であり、当時彼らは「まだたくさんの知識人が投獄されている」として、救出活動を続けていた。ところが日本に帰国すると、「韓国では民主化が進んでいる」と、大新聞がまったくの大嘘を書き立てていた。

 現地に飛びこんで多少の危険を冒さなければ、現実問題を体得し得ないというのが真のジャーナリストの直感である。現在で言うなら、シリアしかり、パレスチナしかり、北朝鮮しかり、である。

(広瀬隆)

※週刊朝日オンライン限定記事

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広瀬隆

広瀬隆

広瀬隆(ひろせ・たかし)/1943年、東京生まれ。作家。早稲田大学理工学部卒。大手メーカーの技術者を経て執筆活動に入る。『東京に原発を!』『危険な話』『原子炉時限爆弾』『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』『第二のフクシマ、日本滅亡』などで一貫して原子力発電の危険性を訴え続けている。『赤い楯―ロスチャイルドの謎』『二酸化炭素温暖化説の崩壊』『文明開化は長崎から』『カストロとゲバラ』など多分野にわたる著書多数。

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