老後2000万円問題など、不安の募る定年後の生活。人生100年時代、シニアの働き方を実践者や専門家に聞いた。
神奈川県に住むA男さん(69)は週4日、都内の百貨店の駐車場で働く。ショッピングや食事など来店目的を聞いて、いくつかあるパーキングの最適場所へ案内したり、それぞれのパーキングで車を誘導したりする。1日の実働は7時間半、朝8時から始まる早番と、夜10時に終わる遅番がある。
「仕事をしていると、おなかがすいてよく眠れる。実に健康にいいんです」
この駐車場の仕事のほかに、毎週水曜日は介護の専門学校などで、ベトナムやフィリピンから来た外国人留学生に日本語を教えている。
「この仕事では、やりがいを感じさせていただいています」
A男さんは従業員3千人規模のIT企業の出身。コンピューター技術者から社員教育の分野へ進み、マネジャーや本部長など管理職もこなした。
認知症の父親の介護のため58歳でIT企業を退職するも、父は半年後に亡くなってしまう。現役時代にアジアの技術者養成に関わったため、日本語教師になる道を志した。教師になれる見通しが立ったころ、縁あってベトナムで教える話がまとまり、1年余ベトナムへ。帰国後、いずれは再びベトナムへ行こうと思いつつ、出身会社のOBが関わる会社の顧問をしたりして過ごしていた。
「そんな折、偶然『シルバーワーク中央』のチラシを見つけたんです」
このシルバーワーク中央は、東京都と中央区が共同でシニアの再就職を支援する組織。都内に12カ所あるアクティブシニア就業支援センターの一つだ。
「3年前の春でした。行くと、今の駐車場の仕事を紹介してくれたんです。全く知らない世界でしたが、やれるのならやってみようかと思いました」
時給に直すと約1千円。東京都の最低賃金(2018年度は985円)に近いが、月十数万円になる。日本語教師の報酬は月10万円。A男さん夫婦はともに公的年金を受けており、家計の収支はプラスを続けているという。69歳にして貯金を取り崩す生活ではないのだ。