ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、芸能界の「レジェンド」を取り上げる。
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中学生の頃だったでしょうか。モノマネ番組で、戦後最初のヒット曲『リンゴの唄』で有名なレジェンド歌手・並木路子さんが「ご本人登場」された時のことです。モノマネタレントと共に生歌唱する姿は、確かに「ありがたい」のですが、何をもって「ありがたい」と感じればいいか分からない複雑な気持ちになった記憶があります。司会の井上順さんが「いやあ、我々の大先輩がこうして来てくださるなんて、ホントこんなに嬉しいことはないよなぁ? みんな!」と必死で、同じく困惑するスタジオを煽っていたのも印象的でした。レジェンドとは往々にしてそういうもの。時代と記憶を超えた分、全然キャッチーな存在なんかじゃなかった。
かつて私が子供の頃は、「大物」と言ったら美空ひばりでした。大物以前の美空ひばりの記憶がない世代にとっては、生まれた時から「ひばりちゃん」は天もひれ伏す圧倒的な大スターであり、ブラウン管越しに、あらゆるオトナたちがひばりさんを称え、敬い、気を遣う姿を観てきたわけです。他にも、淡谷のり子さんや三波春夫さんなんかも「先生」と呼ばれ、重々しい空気を醸していました。
そして今や芸能界は「レジェンド」という名の大物たちで溢れ返っています。堺正章さん、黒柳徹子さん、美輪明宏さん、加山雄三さん、吉永小百合さん、北島三郎さん、和田アキ子さん、上沼恵美子さん、美川憲一さん、志村けんさん、ビートたけしさん、タモリさん、松任谷由実さん、桑田佳祐さん、大地真央さん、松田聖子さんなど……。おそらく長い歴史上、こんな状況は初めてでしょう。本来なら「殿堂入り」「勇退」「ご隠居」といった境地と引き換えに与えられるのが「レジェンド」の称号です。しかし彼らはまだ、そんなところへ赴くどころか、皆一様に現役バリバリ。しかもあらゆる世代・文脈において、その「ありがたみ」を共有できるキャッチーな存在であり続けています。レジェンドたちが第一線で活躍する現象。これを私は「レジェンドのアイドル化」と呼んでいます。