長い闘病生活と手術を経ての充実作
Onecept / David S. Ware
1990年代前半、我が国のDIWが残した大きな功績は、2人のサックス奏者を日本に紹介したことだった。1人はまだ若手だったジェームス・カーター。そしてもう1人がデヴィッド・S・ウェアである。49年生まれのウェアは70年代にセシル・テイラー・ユニットやビーヴァー・ハリス360°音楽経験集団に参加し、フリー~ロフト・ジャズ・シーンで人脈を構築。ここまでは同年生まれのチコ・フリーマンのキャリアとも重なるが、その後フリーマンがメジャー展開できたのに対して、80年代のウェアはアンダーグラウンドにとどまった。
91年録音の日本デビュー作『フライト・オブ・アイ』は、知られざる実力者をクローズアップして反響を呼び、96年までの4タイトルを通じて認知度が定着した。その後、ブランフォード・マルサリスの後押しを得て、大手ソニーから2枚リリースできたのは、自身のポリシーを曲げずに実現した点でも誇れるキャリアだ。その一方で99年には腎不全と診断され、人工透析を受けながら音楽活動を継続。2009年5月、遂に移植手術を受けて、5ヵ月後には早くも復帰ステージを務めた。
本作は同ステージの2ヵ月後にあたる同年12月にNYのスタジオで録音されたトリオ・アルバムだ。ウェアのディスコグラフィーを参照すればわかるように、90年代初めからワン・ホーン・クァルテットを中心とした表現に力を注いできた。それが『サターニアン』でアルバム化された復帰ステージでは、3種類の楽器を吹き分けるソロ・パフォーマンスを敢行。ここでも同様に3種類を使用したピアノレスのトリオでレコーディングに臨んでいる。このポイントに絞れば、現在のウェアは以前よりも自身のマルチ奏者ぶりを前面に出しながら、新機軸の目標に意識が傾いているとも推察できる。サックスを始めて50年という節目にフォーカスしたのも、本作の重要なテーマだ。
ストリッチを完璧にコントロールする厳しさに貫かれた#1、アグレッシヴなテナーが踊り、3人が激しく交錯する#2、ソプラノサックスの一種である楽器特性が高速スピリチュアルと呼ぶべき呪術的な雰囲気を醸し出すサクセロ使用の#6。全編を通じて緊張感に溢れるトリオ・インプロヴィゼーションが素晴らしい。長い闘病生活と手術を経てまだそんなに時間が経っていないのが驚異的な、生命力漲る演奏。さらなる技術の向上を目指して、自己研鑽を怠らないウェア。新たなキャリアのスタートだとの力強い宣言と受け止められる充実作だ。
【収録曲一覧】
1. Book Of Krittika
2. Wheel Of Life
3. Celestial
4. Desire Worlds
5. Astral Earth
6. Savaka
7. Bardo
8. Anagami
9. Vata
デヴィッド・S・ウェア:David S. Ware(ts,stritch,saxello) (allmusic.comへリンクします)
ウィリアム・パーカー:William Parker(b)
ウォーレン・スミス:Warren Smith(ds,tympani,per)
2009年12月NY録音