昨年、デビュー20周年を迎え『初恋』を発表した宇多田ヒカル。これにあわせた12年ぶりの国内ツアー『Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018』の模様を収録した同名の映像作品が発表された。
2018年11月6日横浜をはじめ全国6カ所で開催された公演のうち、デビュー20周年記念日の12月9日の幕張メッセでの最終公演を収めている。
12年ぶりのツアーとなった公演への最大の関心は、歌手、パフォーマーとしての変容と成長ぶりだ。それは幕開けの「あなた」からうかがえる。
背中を出した黒のロング・ドレスというシックな装いでセリから登場し、ピアノ演奏をバックにした丹念で落ち着いた歌唱は、“我が子”に寄せる“母”の思い、愛情の深さを物語る。どこかあどけなさを残しながらも、“大人”“母親”の顔がのぞいて見える。
リズミックな曲へと変わり、亡き“母”の存在が浮かび上がる「道」でのまっすぐな表情、自然な表現も印象的だ。「traveling」ではファルセット交じりの歌唱で個性を発揮。観客との唱和で盛り上がる。
恋人を見つけた喜びを率直に表現した「Prisoner Of Love」、アップ・ビートで韻を踏んだ歌詞、“お姉さんのリストカット”という一節にドギマギさせられる「Kiss & Cry」。日本情緒的な趣で、実らない恋を嘆いた「SAKURAドロップス」は宇多田のシンセサイザー演奏で締めくくられる。
ダンサーの高瀬譜希子を迎えた「ともだち」は、同性愛者の異性愛者への切羽詰まった思いを歌った曲だ。セックスレスのカップルを描いた「Too Proud」でのラップ・パートを意外にも宇多田自身が日本語で披露。
次いで、宇多田と又吉直樹によるショート・フィルムを上映という意表をつく展開だ。又吉の脚本、福山忍監督による衝撃的で滑稽な内容が笑いを誘う。
切ない心情が浮かび上がり、死後の思いをも描いた「真夏の通り雨」、普遍的なメロディー、歌詞による名曲「花束を君に」や「Forevermore」。
いずれも亡き“母”への思いを歌ったものだ。胸を刺す歌詞、過度に歌い上げない姿勢が説得力と余韻をもたらす。