これは国際労働機関(ILO)条約に定める強制労働や、1926年の奴隷条約に記述されている奴隷制に当たるものであり、重大な人権侵害であった。ナチス・ドイツがユダヤ人をアウシュヴィッツ強制収容所に送りこんだのと何ら違わないことを、日本人が朝鮮人に対しておこなったのである。

 膨大な数の被害者たちは高齢になって次々とこの世を去ったが、被害者が日本企業に賠償を求めたのは当然である。日韓基本条約を締結した当時の外相・椎名悦三郎(しいな・えつさぶろう)が1965年11月19日の国会で、「協定によって韓国に支払った金は、経済協力でありまして、韓国の経済が繁栄する気持を持って、また新しい国の出発を祝うという点において、この経済協力を認めたのでございます」と語り、賠償ではなく“独立祝い金”だったと明言した。

 1965年の協定そのものが損害賠償とは無関係であることは、1991年8月27日に、外務省条約局長だった柳井俊二(やない・しゅんじ)が参議院予算委員会で日韓基本条約の請求権協定について「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではない」と明言していた通りだから、韓国大法院判決が日本企業に賠償を命じたのは、当たり前も当たり前の経過である。

 ところが、日本の首相・安倍晋三と外相・河野太郎が日本企業に「賠償金を払うな」と指導してきたのだ。それはおかしいと批判すべきテレビ報道界が、あべこべに率先して韓国批判をスタートしたわけである。

 このおかしな経過を見ていて私が気づいたのは、強制労働被害者に対する個人補償を定めずに日韓国交正常化の条約を結んだ韓国の大統領・朴正熙(パク・チョンヒ)が、軍事クーデターで権力を握って、ヒットラーと同じように反対勢力を全員投獄した男だったという歴史を、日本のテレビ報道界がまったく知らないのだ、ということであった。

※週刊朝日オンライン限定記事