TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は「川上未映子さんがTOKYO FM番組審議会で仰天行動」。
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ロバート キャンベルさんがパーソナリティーの『人生に、文学を。』の公開録音に、最新作『夏物語』を7月11日に発売する川上未映子さんをゲストに迎えた。その席で、僕は“AID”という言葉を知った。非配偶者間人工授精(Artificial Insemination by donors)といって、夫以外の第三者の精子を使う人工授精である。男性側に不妊の原因があるとされる夫婦などが子供を持ちたい時にこの方法を選ぶ。
国内では1948年よりAIDで1万人以上が生を得た。大半の子供は第三者の精子で生まれたことを知らされなかったが、ここへきて知る権利も考慮されるようになった。実際、親が隠していても、子供はどこかで事実を知ることも多い。隠したかった親と、事実を知ってしまった子供。親が後ろめたいと思っている方法で生まれた自分の生に、多くの子供は悲しみとストレスを感じる。
2万~3万円の報酬で精子を提供していた学生らも「あなたが精子提供者だということが、将来子供に知られることもある」との説明にためらい、精子が枯渇している現状だという。
『夏物語』の中で、川上さんはAIDで生まれた男を主人公と出会わせる。小説家・夏子はセックスを望まず、パートナーなしの妊娠方法を探していた。精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢潤と出会い、心を寄せ合うようになる。人は誰もが親や生まれた環境、生まれ持った身体に大きく左右される。どれも自分で選ぶことはできない。
「世界に新しい命を生むことは正しいのか?」と作中に立ち現れた問いに、僕は戸惑った。AIDについて自分は何も知らなかった。街中の親子連れにも、もしかしたら隠されたストーリーがあるのかもしれない。