“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、日銀による「異次元緩和」に対して大きな懸念を示す。
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テニス仲間の結城さんに聞かれた。
「藤巻さん、あのイタリアンレストランに最近行かれましたか? 壁に書かれていた藤巻さんの『1ドル=200円!』の落書きが消されていますよ」
あのレストランの壁は内外著名人の落書きでいっぱいだった。14、15年前だったろうか、当時のオーナーが私にも書かせてくれた。なんと当時の首相、小泉純一郎氏の真下にだ。「1ドル=200円」は日本経済再生のための必須条件で、達成されればデフレ脱却や景気回復なんて簡単だと思っていた。その夢を描いたのだ。達成されないまま壁が塗り替えられ、日本経済は停滞が続く。がっくり。
日銀の米国債購入や日本国債のドル建て発行などを実行すれば穏やかな円安が進行し、デフレ脱却や景気回復につながるという私の主張は、見向きもされなかった。政府・日銀は私が反対していた、「異次元緩和」に突入してしまった。
そして現在、国会で私が黒田東彦総裁に質問していると、日銀は負けを認める寸前なのではないかと思ってしまう。
現代貨幣理論(MMT)が、米国の民主党左派を支持する若者たちに大人気だ。自国通貨建てで国債を発行している限り、インフレが加速しなければ、いくら借金しても大丈夫という考え方だ。欧米の主な金融関係者や経済学者は、「ハイパーインフレを引き起こす」として強く反対している。アラン・グリーンスパン元FRB議長やローレンス・サマーズ元米財務長官、クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事らだ。
提唱者のニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、「MMTは日本で実行中だ」と言う。日銀の異次元緩和は最後にはハイパーインフレを引き起こすという私の懸念は、欧米の重鎮たちと共通している。
異次元緩和のもう一つの大きな懸念は地方銀行への影響だ。朝日新聞の5月20日付朝刊の1面トップは「沈む地銀」。地銀の経営悪化の理由を政府・日銀は地方経済の疲弊や少子化としているが、最大の原因は異次元緩和のはずだ。