ライヴ・イン・マルシアック/ブラッド・メルドー
ライヴ・イン・マルシアック/ブラッド・メルドー
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DVDまで付いたキャリア史上初のパッケージ、メルドーの決意がうかがえる
Live In Marciac / Brad Mehldau

 進化し続ける姿を印象付けた前個人名義2枚組作『ハイウェイ・ライダー』から1年も経たないタイミングでの新作である。昨秋のスウェーデンのメゾソプラノ歌手アンネ・ゾフィー・フォン・オッターとのデュオ2枚組『ラヴ・ソングス』が記憶に新しい中でのリリースだ。しかも3作連続となる2枚組であるばかりでなく、DVDまで付いたキャリア史上初のパッケージ。メルドーの並々ならぬ決意がうかがえる。

 さらに留意すべきは、4年半前の音源をこのタイミングで作品化したこと。そこには時間的事情を超えたクオリティの優先があったことは間違いないが、それにしても映像と合体させたことは、過去作とは根本的に異なるコンセプトで制作されたと考えるべきだろう。自分が気に入っている音源を温めて良い機会にアルバム化するピアニストとしては、メルドーが影響を受けたキース・ジャレットの好例が参考になる。

 2枚組ソロ・ライヴ作として参照しなければならないのが2003年の『ライヴ・イン・トーキョー』だ。本作は同作の3年後だが、ダブリ曲はなく、その間の進化形を広く知らしめることもメルドーの企図だったと想像できる。昨年発売されたウイントン・マルサリス&リシャール・ガリアーノの共演作でその名が知られたフランスのジャズ・フェスティヴァルで、その2年前にメルドーが出演した記録。ビートルズ、ニルヴァーナ、レディオヘッドといったロック・ミュージシャンのカヴァー曲は、このジャンルの扉を開いたジャズ・ピアニスト=メルドーの功績を再認識する思いだ。

 左右の手のフレキシブルな動きに圧倒される「ストーム」でスタートすると、スタンダード2曲で守備範囲を拡大。歌物名曲を好むメルド-は、「イッツ・オ-ル・ライト・ウィズ・ミー」でどのピアニストも挑まなかった再構築に取り組み、「シークレット・ラヴ」では定石を覆すスロー・アレンジで選曲の必然性を説く。ヴァンガード・ライヴを重ねていた時期のメルドー・トリオの魅力が進路と落着点の予測不可能さにあるならば、「アンリクイテッド」はまさにそれを体現したトラック。ディスク2の終盤は2つのカヴァー曲で締められる。「マイ・フェイヴァリット・シングス」は「そうだ、京都へ行こう」という乗りとは異なる、陰影感をつけた表現が独特。コンサートのラスト(アンコール?)に、ボビー・テイモンズのファンキー・ジャズ代表曲を持ってきた真意とは何か。それを考えることが、メルドーの真髄に触れることに繋がると感じられる、探りどころ満点の新作だ。

【収録曲一覧】
Disc-1
1. Storm
2. It’s All Right With Me
3. Secret Love
4. Unrequited
5. Resignation
6. Trailer Park Ghost
7. Goodbye Storyteller
8. Exit Music

Disc-2
1. Things Behind The Sun
2. Lithium
3. Lilac Wine
4. Martha My Dear
5. My Favorite Things
6. Dat Dere

DVD: 11 tracks

ブラッド・メルドー:Brad Mehldau(p) (allmusic.comへリンクします)

2006年8月フランス、マルシアック録音

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