裁判では千佐子被告が「後妻業」として、10人以上の高齢男性と結婚したり、内妻に入って手にした現金が総額で5億円を超すことがわかった。拘置所でその金の行方について聞くと、こう明かした。

「使こうてしもて、わからへん。投資会社に預けて資産を増やそうとしたって?そうよ、たくさん預けたが全部、失敗してすっからかん。やられたわ」
 
 千佐子被告の事件で、立件されたのは4人の高齢男性の殺人などだ。だが、不審死を遂げた人物は合計で10人以上いる。裁判では2013年12月に夫の筧勇夫さんを殺害後も
複数の高齢男性と付き合っていたことも明らかにされた。どうして、こうも次々と高齢男性の懐に入ることができるのか?
その極意を逮捕前に質問すると、「うちにはあんたらにわからへん、魅力があるねん」と激怒していた。
 
 高齢男性について拘置所で改めて尋ねると、こう弱弱しく語った。

「もう、わからん、ぼけてしまった」

「よかったんかも、しれへんな」

 高齢男性を虜にしてきた魅力の片鱗も伺えなかった。逮捕前、千佐子被告は「うちの人生もなぁ」と何度もため息をつく話を聞かされた。それは拘置所でも同じだった。
 
 千佐子被告は福岡の名門高校を卒業して、メガバンクに就職した。だが、実際には、成績優秀で大学進学を希望していたという。目指したのは、九州大学だという。千佐子被告は深くため息をつきながら、こう語った。

「先生から九州大学なら絶対に合格やと言われていた。もっと上も大丈夫という先生もおったよ。けど、九州の田舎は、女が大学行くなんてととんでもない、という古風な土地柄だったので就職しかなかった。高卒ではまず入れない大きな銀行に入れた。そこでもうちはよくできると、上司からも評価されていた。それがなんで、こんなところに今、おるんやろうか。九州大学に行ってたら、拘置所にいることなんてなかった。それがうちの人生の分かれ目やった」

 そして、死刑判決の感想について聞くと、淡々とこう話した。

「人を殺めたのは事実。死刑で自分の命とられても仕方ない」

(今西憲之)
※週刊朝日オンライン限定記事