「這っているカメムシをこれでまず下から優しくすくいます」

 昇太師匠の実演が始まった。またタイミングよく現れるカメムシちゃん。「すくうと……蟻地獄のようにカメムシが坂を滑り落ちていくのね」。なるほど、カメムシは抵抗することなく注ぎ口へと吸い込まれる。「……そのままビニール袋に収まったら、すかさずビニールの上からペットボトルの蓋を閉める!!」。蓋をすればカメムシが戻ることもない。手で触れることなくカメムシをキャッチ&ホールド!ナイス! バスター! 捕れる捕れる。こうなるとこっちから探しに行くくらい楽しくなってきた。入れ食いカメムシ、いとおかし。キャーキャー言いながら袋に集まったパンパンのカメムシが数十匹。

 そのうち、みんなトイレやら煙草やらで楽屋から居なくなり私一人になった。「シャリシャリ……」。カメムシが袋のなかを這いまわる音が楽屋に響く。ふいに「待てよ。これだけの数が一斉に羽ばたいたら『バスター』ごと飛べるんじゃないか?」という妄想。自力じゃ無理かもしれないけど、きっかけがあれば飛ぶんじゃないか? バスターを宙に放り投げると「ブビビ!」。数匹が羽ばたく。頑張れ! また放る。「ブビ!」。頑張れ、カメムシっ! しばらくやってみたが無理だった。だが完全に情が芽生える。東京に連れて帰ろうか? でも機内で気圧で袋が破れてカメムシが逃げたら、飛行機は引き返すかもしれない……。諦めて、バスターを見つめる。「シャリシャリ……」「みなさんもGWは混み混みですね。また来年会えるかな?」と心中でカメムシに話しかける自分も、いとおかし。

週刊朝日  2019年5月31日号

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