11年には所属事務所から独立し、インディーズで活動。突発性難聴を患ったこともあったが、14年にメジャー・レーベル復帰。それまでの足跡の集大成で、スガが語るに“死や夜の悪臭が立ち込めた衝撃的なアルバム”という『THE LAST』(16年)を発表。“苦しみ抜いて生み出した~自分の音楽性の全てを、そして革新性とスキャンダラス性を全部ぶち込んでしまって、ぼくの脳ミソは空になりました”という。

 積極的にライヴ活動を実施しながら、前作の呪縛から逃れられなかったが、それまで自身と向き合うだけの曲を書いてきた彼が“聞いている人の顔、その人達の暮らし向き”を想像しながら初めて書いた「スターマイン」をきっかけに、新曲が相次いで生まれたという。

 聞き手に寄り添った普遍的な曲作りだ。他人のために代筆したラヴ・レターのようなものとも語るが“想像で書いても説得力がない”としてどの曲も作り始めるきっかけは“自分の身近なところから出てくることがほとんど”だという。一気呵成に歌詞を書くスタイルを改め、推敲を繰り返したという。

 エロ、グロ、ショッキングなこと、放送禁止用語、極端な表現、死の匂いのするものや夜の悪臭を封印しながらも、物足りなさを覚えて本来の持ち味、個性へ“はみだしていった”というあたりがスガシカオらしく、そうでなきゃとも思う。

 本作でのもう一つの禁じ手、裏テーマとなったのはファンク/ソウル・ミュージックの演奏、サウンド作りの根幹の一つであるキーボードの起用を避け、生とエレキのギター、ホーン・セクションを演奏、サウンドの牽引力としたことだと語る。

 アルバムの幕開け、エレクトロ・ファンク・スタイルの表題曲はそんな音楽的な意欲を物語る。ベース、ドラムスにギターのリフによるリズミカルなAメロのあと、一気に音像が広がり、ダイナミックなFIRE HORNSによるホーンをフィーチャー。

 どうしようもない自身の日常を語りながら“労働なんかしないで”と歌うこの曲の本意は、それぞれ個人的に異なり“自分でしか決められない幸福の価値観”を提示することにあったという。 

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肩ひじ張らずに自然体で取り組んだ新たな成果