北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
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 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。3度目の結婚をした確定死刑囚・木嶋佳苗に思いを巡らす。

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 木嶋佳苗が3度目の結婚をしたというニュースは、衝撃だった。確定死刑囚と会い続けるためには、親族関係になる必要があるとはいえ、報道を追う限り、相手の男性は本気だ。妻子がいながらも、彼は木嶋を選び、週刊誌の記者なのに、木嶋のことは一切書かず、社にも報告していなかったという。

 合理的な判断とは到底言えないが、だからこそやはり愛……なのか。想像の限界を突きつけられるアクリル板越しの結婚に、むしろ自分の結婚観や愛の狭量さを知る思いだ。

 初めて事件を知った日から、私は木嶋に強く惹きつけられて、100日に及ぶ裁判、ほぼ全てを傍聴してきた。

 婚活サイトで出会った男性たちから約1億円を受け取り、少なくとも彼女に関わった3人の男性が亡くなったという報道で最初に思い浮かんだのは、“東電OL”と呼ばれた女性の事件だった。もちろん全く違う事件だ。そもそも被害者と加害者だし、雇用機会均等法以前に東京電力に就職した1957年生まれの“東電OL”と、北海道に育ち高校卒業後に上京した74年生まれの木嶋は生きた時代も成育環境もまるで違う。それでも彼女たちが私たちに見せた事件は、性差別の国を生きる女性の、ある一面を表象しているように感じたのだ。

 事実、彼女たちは90年代の渋谷で性を売っていた。エンコーという言葉が流行語になったあの時代、30代の“東電OL”はまるでノルマを課すかのように毎日渋谷の街に立ち、木嶋は上京したばかりの頃、渋谷で売春を斡旋されている。若い女というだけで高い値札が付けられる一方で、女というだけでキャリアから排除されるような構造の中、“東電OL”は殺され、木嶋は、あざ笑うように、男たちから奪い続けた。

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