ジャーナリストの田原総一朗氏は、世界が自国第一主義で反民主主義を打ち出す中、日本が歩むべき道を示す。
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平成が始まったとき、私を含めた日本人、いや世界の多くの人々は強い希望を抱いていたはずである。この年、地中海のマルタ島で米ソ首脳会談が行われ、実質的に冷戦が終わったのだ。そして、ベルリンの壁が崩壊した。そこで、首相を終えたばかりの中曽根康弘氏が私に「これは神が人類に与えた休暇の時だ。東西各国の首脳たちが集まって軍縮会議を行うべきだ」と強い語調で語った。
平成が始まる少し前には、米国のレーガン大統領と英国のサッチャー首相が、あらゆる規制を排して自由競争にし、ヒト、モノ、カネが国境を超えて世界市場で活躍できるグローバリズムを主張した。そこで、平成はグローバリズムの時代となったのだが、平成の終わり近くになって、グローバリズムの矛盾が噴き出した。
たとえば、米国は人件費が高いので、米国の多くの企業がメキシコやアジアの国々に工場を移設した。そのために、デトロイトなど中西部の旧工業地域が廃墟同然となった。白人労働者たちの多くが職を失った。
さらに、ウォール街などの一部エスタブリッシュメントに巨億の金が集まり、多くの低収入者たちとの格差は極めて大きくなった。国民大衆は反エスタブリッシュメントとなり、大統領当選確実と言われていたヒラリー・クリントン氏は落選した。
そして、反グローバリズムで「世界のことはどうでもよい。米国第一主義で、国民大衆の生活を豊かにし、雇用を増やすことに専念する。そして、反エスタブリッシュメントだ」と露骨に宣言したトランプ氏が大統領に当選した。
トランプ大統領はメキシコとの国境に壁をつくることにこだわり、自分の主張にいささかでも抵抗する政府の幹部たちを次々に更迭している。とても民主的なやり口とは思えない。
米国だけではない。英国も移民、難民の激増に音を上げ、自国第一主義でEUから離脱することになった。だが離脱してどうするのか。文字どおり混迷している。