天皇、皇后両陛下が静養に訪れる葉山御用邸(神奈川県葉山町)の近くには、両陛下がお忍びで訪れる場所がいくつかある。詩人・堀口大学の長女、堀口すみれ子さん(74)の自宅もその一つだ。
皇后さまは私のことを『すみれ子ちゃん』とか、『れこちゃん』と呼んでくださる。くつろいでいただけるように毎回緊張してお迎えしていました」
約20年前に、葉山御用邸にお茶に招かれたのが出会いの始まり。その1年後には両陛下がすみれ子さんの自宅を訪れた。
2階は、父・大学の書斎と客間がそのままの状態で残されている。陛下は書斎にあった大学の写真をじっと見て、頭を下げたという。
「お参りするようなお姿でした。皇后さまは『お父様に一度お会いしたかったわ』とおっしゃいました。それがとてもうれしかったのを覚えています」
その後、食卓を囲んだ。「割と自由に動いておもてなししました。とにかく楽しく過ごしていただきたいという気持ちでした」
すみれ子さんは昭和時代の食卓を意識して調理したという。
「皇后さまは『さっきのお料理はおいしかったけど何ですの?』などと聞いてくださる。両陛下は決してお残しにならない」
これまで一年に一度は両陛下とすみれ子さんは食卓を共にしているという。両陛下との食卓は楽しくにぎやかなものだった。特に印象に残っているのは、皇后さまが好きな果実だ。
「マクワウリがお好きです。皇后さまの懐かしいお味のようで『マクワウリを育てたいの』とおっしゃっていました。御所の畑にはマクワウリがあるのだけれど、奉納するものなので召し上がることはできないとのことでした」
4月10日にご結婚60年を迎えた両陛下。すみれ子さんはお祝いの詩を作り、1月にすみれ子さん宅での会食の場で、サプライズで二人に披露した。タイトルは「祈りの花束」。10年前から温めていた詩だ。
敬い いつくしみ合って
六旬の年月
きよらな 時の流れは
いま 汪洋の海となった
ときに清漣をつつむ太陽
そして夜を照らす月
困難に手をたずさえていま
宮居に響くみたまのしらべ
御苑に宿る 連理の枝
つつがなく
よろこび多いことを
祈りの花束にして贈ります
「両陛下がお顔を合わせてとても喜んでくださいました。そのときのお二人のお姿は忘れられません」