曽野綾子さん (c)朝日新聞社
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 皇后美智子さまに、庶民の暮らしを伝えるパイプ役だという作家の曽野綾子さん。皇后さまの知られざるエピソードを語る。

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 刻んだ大根の葉を油で炒めて、かつお節をかけたものを熱々のご飯にのせて、おふたりにお出しする。

 天皇陛下と皇后さまが三浦半島にある私の自宅に遊びにいらしたときは、そのときとれる一番おいしい食材をお出しすると決めています。この話を他の人にすると、「よくそんなものを両陛下にお出しできるわね」と言われることもあります。でも私は、昔から自宅の庭や畑で野菜を育てていますから、「旬の季節の食べ物が一番でしょう」と思っているんです。

 私の役目は、皇后さまに庶民の暮らしをお伝えするパイプ役だと思っています。

 たとえば両陛下には、今年のキャベツの値段が1個いくらなのか、お話しするんです。ぴんとこなくていらっしゃるかもしれませんけど、皇后さまは、普通の人々の暮らしを知っておられますから、サラリーマンの家庭で出てくるような話題を、あえてお耳に入れてもいいと思うのです。

「普通の生活」といえば、数年前に、皇后さまの「夢」をかなえるお手伝いをしたことがあります。2007年の記者会見で、身分を隠して1日過ごせたら何をしたいか、という質問に、皇后さまは「学生のころよく通った神田や神保町の古本屋さんに行き、もう一度本の立ち読みをしてみたい」とお答えになりました。

 それならばお手伝いができそうと、東京・渋谷のジュンク堂書店に事情を話して、お連れしました。私服の警備はついていましたが、朝10時の開店と同時に、一般のお客さんもいらっしゃる店内を自由に歩かれました。学生さんと、お子さんを連れたお母さんが、皇后さまに気づいたようでしたが、そっと見ぬふりをしてくださいました。歩いて本を選んでいると疲れるでしょう。ですから書店には、「後でコーヒーつきで休憩させてくださいますか」と頼んでおきました。

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