イチロー引退会見以来、「亭主がイチローならおにぎりの3千個くらいどうってことないわ!!」という女性に何人も会いましたが、弓子の気もしらずに何を言うか!(何故か呼び捨て)。イチローは細かいよ、たぶん。無論厳選された材料。おにぎりの「大きさ」「硬さ」「米の炊き加減・密度」「米と具材の比率」「海苔の大きさ・巻き方・巻く面積」「塩の原産地」はもちろんのこと、「手を湿らす水の質」「握るとき使うラップのメーカー」「入れるのは竹の皮かプラスチックの容器か?」「どちらの方角を向いて握るか」「握ったおにぎりにはどんな音楽を聴かせるか」……常にルーティンを求めるイチローの厳しいチェックが入るんですよ。「今日は趣向を変えて“トリュフ塩”」なんて絶対許されない。ヒット打てなくなったらどうしてくれる、トリュフ塩!!

 以上、完全に妄想ですがイチローがいなかったら軽い懲役です。弓子夫人にも『おめでとう』、そして『おつとめご苦労様でしたっ!』と言いたい。弓子夫人はおにぎりのプロと言っていいでしょう。恐らく弓子夫人、これからは「草おにぎり」を握ると思いますが、やはり「草おにぎり」は「プロおにぎり」で苦労した人間しか楽しんで握れないのではないか……と思うのです。恐るべき「草」。私も引退したら「草落語」を楽しめるかしらん。もっと苦労せねば。……いや、引退しないし。

週刊朝日  2019年4月19日号

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