『珠玉』(双葉社、1,400円※税別)は、弱さを抱えた若者たちの成長を描いた小説だ。主な登場人物は、国民的歌姫であった祖母リズの孫娘でデザイナーの歩と、その仕事に協力するハーフのモデル・ジョージ。そして歩が所有する、真珠のキシ。本作は人間である歩に加え、キシとその妹分であるカリンからの視点も加わる。著者の彩瀬まるさんに話を聞いた。
「初めに思いついたのが、真珠がしゃべるという設定だったんです。今まで書いてきた作品は日常的な、シンプルな話が多かったんですけど、今回は仕掛けを凝らした、読んでいて楽しいものを書こうと思いました」
キシはもともとリズの所有物で、今の持ち主である歩には、何かと祖母と比べて不満を覚えてしまう。歩自身もリズに対して劣等感を覚えており、作中での両者の対比は鮮やかだ。「対比のためには、ふたりの職業がちょっと違った方がいいかなと。それで、真珠を胸に飾る仕事と、真珠から何かを作る仕事を思いついて、昔のスターと現在のデザイナーという設定にしました」
リズを描く上で参考にしたのは、山口百恵や藤圭子の資料だった。彼女たちの全盛期は、マスコミによるプライバシーへの配慮はほとんどなく、週刊誌にあることないことを書き立てられることも珍しくなかった。なぜそのようなことが起こるのか。「本当のあの人を知りたい」という願望が大きかったからだと思っている。
「ただ、何が本当の姿かというのは難しい問題です。例えばおしゃれな人が着飾っていない状態が本当の姿なのかと言えば、そうとも限らない。芸能界から引退して普通のおばあさんになったリズが本当の姿なのか、それとも舞台の上のリズが本物なのかは曖昧です」