恩赦は難しい佐川元国税庁長官 (c)朝日新聞社
恩赦は難しい佐川元国税庁長官 (c)朝日新聞社
恩赦を出願した袴田巌さん=代表撮影
恩赦を出願した袴田巌さん=代表撮影

 平成に代わる新元号「令和」が4月1日午前、発表された。一方、皇位継承に合わせて実施される「恩赦」にも注目が集まっている。

【写真】恩赦を出願した袴田巌さん

 恩赦は天皇の即位や逝去、皇太子の誕生や結婚など国家の慶弔時に、裁判ですでに確定している刑罰などを消失させたり減刑したりする制度だ。恩赦の実施は1993年の「皇太子ご成婚」以来、26年ぶりとなる。

『「元号」と戦後日本』などの著書がある社会学者の鈴木洋仁氏が解説する。

「日本では中国の制度を基に始まっており、487年の顕宗天皇崩御から行われるようになったようです。恩赦はいわば、国家からの香典返し、あるいは引き出物のようなものです。生前退位ということで、今回の実施時期は10月の『即位礼正殿の儀』を受けて行われると思います」

 恩赦には、政令で対象となる罪や刑を決めて、該当者を一律に救済する「政令恩赦」と、本人の申請に基づいて個別に中央更生保護審査会が審査する「個別恩赦」がある。

 今回の恩赦に関心が高まったきっかけは、財務省の決裁文書改ざん問題をめぐる佐川宣寿・元国税庁長官の減給処分が免除される可能性があると一部で報道されたことだ。鈴木氏はこう見る。

「昭和から平成への代替わりの時に、公職選挙法違反者を一律に救済するなど、恩赦を恣意的に運用して批判されました。それだけに政府は慎重に検討する姿勢を見せています。まして、政府が今回の改元を利用して、自分たちの味方を優遇したと捉えられるのは避けたいところでしょう。佐川氏の懲戒処分の免除は現実的に難しいと思います」

 過去には、死刑囚が恩赦で無期懲役に減刑された例もある。今回、「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さんが恩赦を出願している。昨年6月、東京高裁が静岡地裁の再審開始決定を取り消し、現在特別抗告中だが、再収監を阻止することを最優先した。

「政府はこれまで犯罪被害者保護法を成立させるなど、被害者を重視する政策を取ってきました。ですから、被害者感情に配慮し、死刑など重罰を減刑することはないでしょう。ただ、袴田さんについては、人道的な観点から適用される可能性があります」(鈴木氏)

 日本では、恩赦は抑制的に行われる傾向にあるようだ。恩赦制度は世界各国で広く採用されているが、米国などでは近年はむしろ、活発的に実施されるようになっているという。

「これまでの国家や王権からの恩恵という考え方ではなく、米国などでは死刑囚や受刑者の“権利恩赦”として見直されるようになっているのです」

 そう指摘するのは、龍谷大学法学部教授で犯罪学研究センター長の石塚伸一氏だ。米国では、死刑囚を減刑するために恩赦が活用されているという。

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