バブーン・ムーン/ニルス・ペッター・モルヴェル
バブーン・ムーン/ニルス・ペッター・モルヴェル
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フューチャー・ジャズの中心的トランペッター
Baboon Moon / Nils Petter Molvaer

 海外の知人からメッセージが届くのはいつも嬉しい。昨日スティアン・ヴェスタルフースから「ハッピー・バースデイ」のメールを受け取り、11月23日に日本盤がリリース予定の本作を、急遽前倒ししてレビューする次第である。

 ノルウェーのジャズに明るい向きなら、90年代後半に顕在化し、世界中へと広がったフューチャー・ジャズの中心的トランペッターがモルヴェルだと認識しているはずだ。今世紀に入って自主レーベルSulaを立ち上げ、大手ユニバーサルからのディストリビュートという体制を確立。妥協のないクリエイティヴィティの姿勢を保ちながら、経済的な安定感も担保する、ミュージシャンにとって理想的な活動を継続してきた。

 本作はSulaでの制作はそのままに、ユニバーサルを離れて同じく大手のソニー・ミュージックと契約した第1弾である。気分一新の意味もあったに違いなく、メンバーを刷新。アイヴィン・オールセット(g)、オードゥン・クライヴ(ds)、ヤン・バン(sampling)といったレギュラー・ミュージシャンが退いて、ヴェスタルフースとアーラン・ダーレンが加わった3人編成になった。

 モルヴェルが人数的には少数精鋭に再編した理由を探ると、最大の理由がヴェスタルフースを獲得できたことだと思える。一昨年ベルゲンの《Nattjazz》で観たステージがそうだったように、過激なギター・ソロ・パフォーマンスを得意としながら、日本の野外フェスティヴァル出演で人気を博すノルウェーのスーパー・グループ、ジャガ・ジャジストの一員としても活躍。本作では各種ギターのみならず、電気鍵盤やアタッチメントを駆使し、1人で数人分の役割を演じているのが大きい。

 ドラマーのダーレンはハーモニウムやパーカッションも兼務して、バンド・サウンドに貢献。前述の《Nattjazz》で観たマティアス・アイク5とアイヴィン・オールセット“ソニック・コーデックス”の2組は、偶然にもツイン・ドラムスの編成で、いずれにもダーレンが参加していた。フューチャー・ジャズの流れを汲む2つのバンドに、同時に起用された事実で、自分の頭には要注目ドラマーとインプットされており、モルヴェルの新バンドで繋がったのである。

 サウンド面ではこれまでのモルヴェルの作品に親しんできたリスナーには、驚くほどの劇的な変化は感じられないだろう。ただしビート感を強調したテクノ~ファンク的な場面は減り、アコースティックギターが入った静かで叙情的な#4が際立つあたりは新展開と言える。最後のタイトル・ナンバー#9は厳かな雰囲気の中、トランペットが主旋律を吹奏し、轟音ドラムスを合図にギターと女声が加わると、ぞくぞくする程の快感と共にクライマックスが訪れる。バンド再編の狙いはこの3人で世界中のどこでも、本作を再現できることにもあったのだ。

【収録曲一覧】
1. Mercury Heart
2. A Small Realm
3. Recoil
4. Bloodline
5. Sleep With Echoes
6. Blue Fandango
7. Prince Of Calm
8. Coded
9. Baboon Moon

ニルス・ペッター・モルヴェル:Nils Petter Molvaer(tp,vo,loops,b-syn)(allmusic.comへリンクします)
スティアン・ヴェスタルフース:Stian Westerhus(g,syn,per,key,vo)
アーラン・ダーレン:Erland Dahlen(ds,per,vo)

2011年作品

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