ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ロシアで進んでいるインターネット上の情報規制について現状を説明する。
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3月7日にロシア下院を通過した二つの法案が波紋を広げている。いずれもインターネット上の情報を規制するものだ。政府がフェイクニュースとみなした情報の掲載や共有、国家や政府への「侮辱」が犯罪になるという。
いずれの法案にも反対の声が上がっているが、上院でも可決されており、プーチン大統領の署名を経て成立する公算が高まっている。
二つのうちの一つはフェイクニュース禁止法案で、「社会秩序や治安、国民の生命、財産、基幹インフラ」に害をなす「不確実な情報」をネット上に掲載・拡散することが禁止される。情報の真偽は検察当局が判断し、違反した場合には、個人、公務員、法人にそれぞれ最大で40万ルーブル(約68万円)、90万ルーブル、150万ルーブルの罰金が科せられる。さらに、違反者は当該情報の削除を命じられ、応じない場合は通信監督当局が情報へのアクセスを遮断する。
もう一つの法案は、ロシア当局や政府機関、国家の象徴、憲法を侮辱するネット投稿が禁止され、違反者には10万ルーブルの罰金が科せられる。「国家の象徴」にはプーチン大統領も含まれるという。こちらも削除に応じなければ通信監督当局により情報へのアクセスが遮断され、違反を繰り返す場合には15日間の禁錮刑が科される。
いずれも新聞やテレビなどのマスメディアは対象外とされているが、多くの国民がインターネットから情報を取得し、ソーシャルメディアなどで発信していることを考えれば、広範囲に影響が及ぶ。
両法案ともプーチン政権の与党「統一ロシア」が提出したものだ。野党勢力や国内メディア、有識者からは、政府批判の封殺や検閲を目的としたものではないかとの批判もある。
大統領の諮問機関「市民社会および人権に関する委員会」でさえも、「真偽が疑わしいという理由だけで表現の自由が制限されてはならない」として法案の見直しを提言。高額な罰金によりネットメディアが閉鎖に追い込まれるとの懸念を示している。