『ジミ・ヘンドリックス:ミュージシャン』キース・シャドウィック著
『ジミ・ヘンドリックス:ミュージシャン』キース・シャドウィック著

 ジミ・ヘンドリックスが痛ましくも早世した後、数十年の歳月が経過する間、活字による壮大にして脆弱な墓石が、彼の人生、恋愛、富、ドラッグ、トラブルやそのすべてにピリオドが打たれた経緯に重ねて、数多く刻まれてきた。

 その一方、俗世間のセンセーションとスキャンダルから離れたところで、彼の音楽に対する評価は、静かに高まりつつあった。

 本書は、彼の「生と死」によって残された騒々しい雑音を排除し、音楽そのものに焦点を絞る。そして、「ヘンドリックスの音楽は、なにゆえそれほどまでに異彩を放つのか?」を問う。

 著者キース・シャドウィックは、サックス奏者およびジャズとクラシックに関する文筆家として知られ、パフォーマーでありライターでもある著者ならではのユニークな観点から、ヘンドリックスを捉えている。

 1960年代におけるミュージシャンとして初期の素朴なサウンドから、3枚の名盤『アー・ユー・エクスペリエンスト』『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』『エレクトリック・レディランド』における彼のグループ、エクスペリエンスの開花にいたるまで、文字どおりジミ・ヘンドリックスの“音楽的エクスペリエンス”を辿る。

 本書はまた、その後のヘンドリックスに関して、たとえば彼が、数々の天才アーティストの例に倣い、その“天才”を行使する決断を通して、自分自身を見失ったというような、大胆な分析を試みる。彼には、新たな出発が必要だった。しかしヘンドリックスが、その方向に踏み出そうとしたまさにその時、彼の人生は突然、予期せぬ形で幕を閉じた。1970年9月のことである。

 著者シャドウィックは、1967年にジミ・ヘンドリックスの音楽と出会った。彼は当時、ジョン・コルトレーンやアーチー・シェップといった前衛ジャズのミュージシャンを愛好するティーンエイジャーだった。地元のレコード店の試聴室でヘンドリックスの『アー・ユー・エクスペリエンスト』を初めて聴き、前衛ジャズに匹敵する強烈な個性をもつ一握りのロック・ミュージシャンと確信する。以来、ヘンドリックスの音楽を傾聴し、造詣を深めた。

 本書は、著者の長年にわたる研究の集大成である。

「ヘンドリックスの音楽は、まるで小型の白黒テレビからありとあらゆる色彩に彩られた巨大なスクリーンへ進化するようなものだった」
アンディ・パートリッジ

 ジミ・ヘンドリックスは音楽を作ること以外、何も求めていなかった。だが、成功にともない思いがけず名声を得ると、それを拒むことはなかった。彼はそれまで、無名のセッションマンとして、厳しい生活を強いられていた。だが、24歳でブレークし、人気を博する。そして3年後、彼は逝った。にもかかわらず、彼の驚くべき音楽は、現代の作曲家、世界的に名の通ったクラシックの奏者や多数の野心的なロック・ギタリストに崇められ、リメイクされ、いまなお生気を放ちつづけている。(訳:中山啓子)