キンドレッド・スピリッツ/ゾエ・ラフマーン
キンドレッド・スピリッツ/ゾエ・ラフマーン
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強烈な個性を発揮する日本では無名の女性ピアニスト
Kindred Spirits / Zoe Rahman

 前回に引き続き、日本では無名の女性ピアニストを紹介したい。イングランド南東部チチェスター生まれのゾエ・ラフマーンは、普通の英国人として育った。

 王立音楽院で学んだ10代に、譜面を見ずに音楽を作るジャズの魅力に惹かれ、次第に傾倒してゆく。オックスフォード大学ではクラシックを専攻しながら、ビル・エヴァンスを研究。ジュリアン・ジョセフ(p)の勧めでオスカー・ピーターソンやジョアン・ブラッキーンを聴いて、ジャズへの愛を強め、米バークリー音大に入学する。

 2001年にデビュー作をリリースすると、BBCジャズ賞の新人部門とマーキュリー賞にノミネートされ、注目を集めた。その後は2009年までに合わせて4枚のリーダー作を世に送り、コートニー・パインのグループに抜擢されて、順調にキャリアを重ねてきた。

 5枚目となる本作のコンセプトが生まれたのは、2009年の父親の入院がきっかけだったという。ベンガル人(注:ベンガルはもと英国領のインド北東部で、現在はインドとバングラデュにまたがる)の父は家庭内で母国の音楽をかけなかったため、ゾエがそれらに接することのないまま成長したのだが、古いカセットを父のためCDにコピーしてあげた時に、初めてベンガルの音楽を聴いて自己のルーツに目覚めた。一方イギリス人の母親を持つゾエは、母方の祖母がアイルランド人であることに以前から関心を抱いており、2011年のアイルランド・ツアーを成功させて新作の制作に取り掛かっている。

 本作で重要な創造の源となっているのがラビーンドラナート・タゴール(1861~1941)だ。詩人、思想家、ノーベル賞受賞者で、インド国歌とバングラデシュ国歌の作詞・作曲者でもあるタゴールは、2011年が生誕150年の節目で、アイルランドとの関係も深かった。これらがゾエにとっての大きな制作動機に作用したのである。

 #1を聴けば誰もが衝撃を受けるだろう。バークリーで師事したジョアン・ブラッキーン譲りのスケール感でピアノを鳴らす技術と、アフロビートを吸収したダイナミックなトリオ・サウンドに、ゾエの豊かなポテンシャルを体感する。パインがアグレッシヴなフルートで助演した#2も、アルバムの勢いを加速。10代のゾエがジャズ好きになった貢献者でもある実弟アイドリスが4曲に参加しており、タゴールの楽曲をカヴァーしたメドレー#4ではクラリネットがエキゾチックなメロディを奏で、ピアノと共に妖しく燃え上がる。表現者としての意思の強さが止むに止まれぬ音楽衝動に繋がり、強烈な個性を発揮するゾエ。本作でただならぬ才能を知ったぼくは、ゾエの過去4タイトルをすぐにオンラインで発注した。

【収録曲一覧】
1. Down To Earth
2. Conversation With Nellie
3. Maya
4. Forbiddance (Mana Na Manili)/My Heart Dances, Like A Peacock, It Dances (Hridoy Amar Nache Re)
5. Butlers Of Glen Avenue
6. Outside In
7. Imagination (Hridoy Amar Prokash Holo)
8. Rise Above
9. Fly In The Ointment
10. Contusion

ゾエ・ラフマーン:Zoe Rahman(p,harmonium)
アイドリス・ラフマーン:Idris Rahman(3.4.5.:cl, 7.:b-cl)
コートニー・パイン:Courtney Pine(a-fl)

2011年2、3月録音

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