ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。「ミニ・トランプ」が跋扈している背景を明かす。
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過激な発言を繰り返し、「フィリピンのトランプ」とも称されるロドリゴ・ドゥテルテ大統領。2016年6月の就任直後から麻薬撲滅を最優先課題に挙げ、捜査中の超法規的殺人すら容認する強硬な捜査・摘発を進めたことで、国際社会から強い批判を浴びている。
フィリピン政府は、18年中までに麻薬捜査に関連して5千人の市民が殺害されたことを公式に認めているが、人権団体からは死者は2万~3万人に及ぶとの指摘もある。このような状況にあっても、政治、行政、エリートの腐敗に不満を募らせてきた国民からの支持は厚く、7割近い高支持率を維持している。
だが、誰もがドゥテルテ大統領のやり方を是認しているわけではない。批判の急先鋒(きゅうせんぽう)が、有力ネットメディア「ラップラー」だ。CNNのベテラン記者だったマリア・レッサ氏ら、複数のジャーナリストによって12年に設立された。
ドゥテルテ政権の発足後、麻薬戦争の名のもとに市民が違法に殺害され、死者数が過少に報告されていること。さらに、政権がフェイスブックを利用した世論操作を行っていることなどを報道し、批判を続けている。
一方のドゥテルテ大統領は、ラップラーを「フェイクニュース」「CIAの手先だ」と非難。記者会見から締め出すなど、さまざまな圧力をかけてきた。
そのレッサ氏が2月13日、ネット上での名誉毀損(きそん)の容疑で逮捕された。問題とされたのは、ラップラーが12年5月に掲載した記事。当時の最高裁長官について、人身売買や薬物密輸が疑われる実業家との癒着の可能性を報じたものだ。掲載から5年以上たった17年10月に、実業家が突如サイバー犯罪防止法の名誉毀損で告訴し、事件化した。
捜査機関は当初、記事掲載時には施行されていない同法を遡及(そきゅう)的に適用できないとしていたが、司法省は今年1月、ラップラーが14年に誤字の修正のために記事を更新したことを理由に逮捕に踏み切った。明らかな逮捕権の乱用だ。