大河ドラマの原作となった『峠の群像』『秀吉』など歴史小説も得意で、流行作家として予測小説、歴史物、文明評論の世界を自由に行き来した。

 意外だったのは、内閣官房参与で政権の「ご意見番」なのに、東京五輪のサマータイム導入には大反対だったことだ。昨秋に堺屋さんを訪ねると、

「五輪のマラソンのたった1日のことが動機です。動機不純で、定着するはずがない。体協(五輪組織委員会)の人たちの金集めの一環ですよ」

 そう怒っていた。戦後のサマータイムが導入されたのは1948年。堺屋さんが学校に通っていた頃だが、

「記憶には全くないです。いつも学校に遅刻していったから」

 アハハと笑った。

 このとき聞いたのが、小説をなぞったような、現実の「平成30年」へのぼやきだ。

「日本人の人生は、東京一極集中で画一的な型にはめる規格化が進みました。正社員優遇、小住宅持ち家主義。キャバレーもなくなり、カジノをつくるといえば『依存症が』と反対される。生活は貧しく、均一化しましたね」

 いまが明治日本、戦後日本に続く大転換期だと力説した。

「日本に欠けているのは、楽しい国造りです。楽しい国は、多様性と意外性がある。安全で清潔な国なのにそれが欠けている。欲がない、夢もない、やる気がない、低欲社会ですよ。日本の人口は減少する。楽しい日本をどうするか。これを考えるしかない。日本を楽しい社会にするべきです」

 編集者として堺屋さんと40年つきあった豊田利男さんによると、2025年の大阪・関西万博が決まった昨年11月は、大喜びだった。

「万博をやるまで生きていたい。大きな万博を2度経験するやつはそうはいないぞ」

 そう語っていたのに、年明けに体調を崩して入院、容体が急変した。

 堺屋さんは、改元をはさむゴールデンウィークをめざして、本を執筆中だった。遺作となる本の仮タイトルは、堺屋さんが名付けた。『三度目の日本』(祥伝社)。これはわれわれ日本人への伝言だろう。

 堺屋先生、ありがとうございました。(朝日新聞オピニオン編集部次長・金子桂一)

週刊朝日 2019年3月1日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?