「ヤマダさん、われわれ三人ですよね」
「へっ?」
FP氏は微笑んでいたが、そう、大センセイ、三人であることをすっかり忘れて、大秋刀魚をほとんどひとりで食べちゃったんである。
実に品がなかった。誠に下品であった。
さて、こうして自分のはしたない過去を振り返ってみると、品のあるなしは、どうやらスピードと関係があるように思えてくる。
ガツガツとご飯をかき込む姿は品がないが、ゆっくりと箸を運ぶ姿には品がある。つまり品がないとは、一刻も早く欲望を満たそうとするあまり、周囲が目に入らなくなっている状態を指すのではないか?
人間は欲望の塊であり、大センセイとてその例外ではない。食欲、性欲、所有欲、金銭欲、名誉欲、自己顕示欲。ありとあらゆる欲望を濃厚に持っているが、日頃、そのほとんどをあからさまにはしていない。
しかしあの時は、食欲をむき出しにしてしまったのだ。皮がパリパリに焼けた大秋刀魚を前にして、前頭葉のブレーキが利かなくなってしまったのだ。
おそらくネットの世界に品がないのは、匿名で他者を誹謗中傷する人が大勢住んでいるからではなく、そもそも「一刻も早く欲望を満たすこと」を善とする世界だからではないか。
早く知りたい、早く調べたい、早く買いたい、早く広めたい、早く早く……。
きっとこんなことを書けば、「お前もそだろ」ってコメントが山ほど届くんだろな。やれやれ。
※週刊朝日 2019年2月22日号