子どもから大人まで、対話を通して哲学的思考を体験できるのが「哲学対話」だ。5人から20人くらいで輪になって座り、一つのテーマについて話をしながら考える。梶谷真司さんはこの数年、地域や学校で何回となく行ってきた。
「どういう年齢の人が集まっても、みんな楽しそうなんですよ。考えることは楽しい、というのが大きな発見でした」
梶谷さんの近著『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』(幻冬舎新書、840円※税別)では哲学対話の面白さを紹介し、「問う、考える、語る、聞く」ための方法を、やさしい言葉でひもといていく。
「哲学をすべての人に」というプロジェクトにかかわる梶谷さんだが、最初からこうした活動に熱心だったわけではない。哲学対話に出会ったのは7年前、ハワイの小学校でのこと。
「10歳くらいの子どもたちがおしゃべりしながら、哲学的にも面白いことを言っている。衝撃的でした」
ドーナツを何個食べてもいいと言われたらどうするか、プライベートジェットがあったらどこに行くかなど、生徒が出した問いから投票で一つ選び、「夢から出られなくなったらどうするか」をみんなで考えた。怖い夢の話が語られ、「夢と現実は記憶の長さが違う」という言葉も飛び出した。
この対話は大人にも有効と直感した梶谷さんは、日本でワークショップや対話イベントを始めた。すると、普段は哲学に縁のない人たちが大勢集まった。
哲学対話にはルールがある。何を言ってもいい、否定的な態度をとらない、話がまとまらなくてもいい、などの8項目だ。発言に消極的になる力を取り除くと、みんな自由に話し出し、表情が明るくなるという。
「開放感でしょう。自分とは違う考え方を聞くと視界が開ける。考えることで自分の置かれた状況や物の見方から距離をとり、自分を縛っている役割や固定観念から自由になれるんです」
原発事故後の福島で、『おおきなかぶ』という絵本を題材にしたことがあった。おじいさんが大きなカブを抜こうとするが、一人では抜けないので、おばあさんを呼んでくる。イヌやネコも加勢して、ようやく抜けたというお話だ。