島村氏はこう語る。
「全くわかりません。現在の学問では、前兆を捉えた経験がないわけですから、何とも言えません。けれども、そろそろ起きても決して不思議ではありません」
しかも今年3月、神戸大学などの研究チームが、鬼界カルデラに世界最大級の溶岩ドームがあることを海底調査によって確認したと発表している。直径約10キロで、マグマ溜まりから出た溶岩の量は約40立方キロメートルと推定されるという。7300年前の噴火の後に形成された可能性が高いといい、大きな噴火に向けた準備が進んでいるということなのか。
火山学者の高橋正樹・日本大学文理学部地球科学科教授はこう指摘する。
「考え方には二通りあります。一つは、大きな噴火が起きる前兆かもしれないという捉え方です。もう一つは、逆にそれだけ大量のマグマが出て安全弁が開いているのだから安心していいだろうという考え方です。私は後者で大きな噴火に結びつくことはないだろうと思っています。やはり、火山は長い間、静かなほうが危険性は高いと考えます」
口永良部島の噴火が鬼界カルデラに与える影響について、高橋氏は「直接は関係ない」と言う。
「やはり予兆があるとすれば、鬼界カルデラの一部である薩摩硫黄島の火山活動に現れるでしょう。ただ、見方を変えると、南海トラフ地震を引き起こすプレート境界で歪みが溜まって、それが桜島や霧島山も含めた九州南部の火山に影響を与えている可能性はゼロではありません」
口永良部島の噴火の収束を待ちたいが、やはり“想定外”の事態も起こり得るのだ。
阿蘇カルデラにいたっては世界最多の4回、破局噴火を起こしている。4回目は9万年前で、過去最大規模だった。火砕流は海を越えて現在の山口県に到達した。
「北海道の網走でも数十センチの火山灰が積もったと言われている」(高橋氏)というから、想像を絶する。
17年12月、広島高裁が四国電力伊方原発(愛媛県)の運転を差し止める決定を出したのは、阿蘇カルデラの破局噴火によって火砕流が四国に達するリスクを考慮しての判断だった。
前出・島村氏が語る。
「科学者からすればきわめて合理的な判断でした。それだけに、その後の異議審(18年9月)でこの決定が取り消され、再稼働につながったのは残念というほかありません。阿蘇から伊方原発までの距離は約140キロです。原子力規制委員会でさえ原発から160キロ圏内の火山を対象に、電力会社に対応策を求めています」
佐賀の玄海原発はもちろん、鹿児島の川内原発も160キロ圏内だ。
人智を超えた破局噴火による壊滅的打撃に、同時多発的な原発事故が追い打ちをかけることになれば、本当に“最後のとどめ”になりかねないのである。(本誌/亀井洋志)
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