「この結果を踏まえて、今まで余分に抗がん剤治療をしていた人たちが抗がん剤治療を免れることができます。ただし、これを調べる検査は自費で約40万円かかるので、ご本人の希望や医師との相談によりその可能性が高いと判断された人におすすめすべきです」(同)

 ルミナール型に適応するホルモン療法では、CDK4/6阻害剤という薬で、イブランス(一般名:パルボシクリブ)とベージニオ(一般名:アベマシクリブ)という二つの薬が新たに保険適用となっている。

「ホルモン受容体陽性のルミナールタイプの進行再発転移がんに使える薬で、従来のホルモン剤と併用します。細胞周期という、がん細胞の分裂が進む過程に関わるCDK4/6というたんぱくをブロックすることによって、細胞分裂をストップさせる薬です」(同)

 ルミナール型は比較的治療後の経過がいいタイプだが、十数年経って再発するのはほとんどがこのルミナール型だ。この点についても、将来明確なマーカーが判明すれば、がんの経過について予測できるようになるだろうと向井医師は話す。

 さらに、現在注目されているのが、向井医師が責任研究者として主導し進行中の「HER2陽性乳がんに対する手術省略を目指したバイオマーカー開発研究」という臨床試験だ。

 HER2が陽性、ホルモン受容体が陰性というHER2型で、HSD17B4という遺伝子に変異がある場合には、3~6カ月の術前化学療法の後に約1カ月の放射線治療をおこなえば、手術をしなくても根治に導ける可能性があるということを調べる試験だ。

「約40施設でステージ1~3の乳がん患者200人を登録予定です。現在登録も開始し、試験結果を解析して明確な結果が報告できるのは、21年ごろになる予定です」(同)

 もしこの試験で良い結果が得られれば、約3千~5千人の患者が手術不要になるという画期的な治療戦略が生まれるかもしれない。

 現在、がん関連遺伝子を網羅的に調べて治療に生かすゲノム医療が進みつつある。そうなるとさらに治療は細分化され、新薬の開発と相まって、個々の患者に合ったテーラーメイド医療が進展していくだろう。(ライター・伊波達也)

週刊朝日  2019年1月25日号