『ポール・ブレイ:ザ・ロジック・オブ・チャンス』アリーゴ・カッペレッティ著/グレゴリー・バーク英訳
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●本書について

 アリーゴ・カッペレッティが、ジャズ史上もっとも難解で神秘的な人物、ポール・ブレイの音楽人生を辿る。

 1932年にカナダのモントリオールで生まれたポール・ブレイは、50年にわたりジャズの中心人物と捉えられてきた。彼は、ジャズ・ジャイアンツの一人に数えられるが、孤高を貫く異質の巨匠として位置づけられる。ブレイは、自由奔放で探究心旺盛な気質を音楽に投影し、フリー・ジャズを追究しつづけている。彼は文字通り、インプロヴィゼーションの唱道者である。

 ポール・ブレイは、チャーリー・パーカー、レスター・ヤング、ベン・ウェブスター、チャールス・ミンガス、ソニー・ロリンズ、ジミー・ジュフリーのバンドで、優れた才能を磨いた。また、オーネット・コールマン、チェット・ベイカー、ゲイリー・ピーコック、リー・コニッツ、ジョン・スコフィールド、ジョン・アバークロンビー、ビル・フリゼール、パット・メセニー、ジャコ・パストリアスといったジャズの偶像と共演し、120枚を超えるCDをレコーディングしている。

 著者アリーゴ・カッペレッティは、『イル・プロヒューモ・デル・ジャズ』を執筆したイタリアのジャズ・ピアニスト及び作曲家であり、ヴェニスの音楽学校で教鞭をとる。また、『ムジカ・ジャズ』や『オール・アバウト・ジャズ』といった数多くの雑誌に寄稿している。

 イタリア語(原書)を英訳したグレゴリー・バーグもまた、ジャズ・ピアニスト及び作曲家である。彼はかつて、ポール・ブレイ、ジョージ・ラッセル、ユセフ・ラティーフの教えを受け、レコーディングやステージでの音楽活動を続けている。

●本文より抜粋

 ポール・ブレイの音楽の核心をなすのは、パラドックスである。

 彼は、既存主義への反逆者、狂気の男、予測不能の人物と称され、そのアーティスティックな人生行路において、私たちの予想をことごとく覆し、的確で捉えどころのないロジックによって、ピアノ・ソロを展開する。

 ブレイは、既成のスタイルやルールに従わず、それらを拒絶する。彼は、コンサートの前のソロの順序やセットにおける曲目のリストから、ハーモニーやリズムの構成に関する既成概念に至るまで、予測がつき、制約を受けるように思われるありとあらゆるものを排除するのである。(訳:中山啓子)

●著者紹介

 ベン・ラトリフは1996年以降、ニューヨーク・タイムズでジャズ評論家として健筆を振るっている。また、『コルトレーン:ザ・ストーリー・オブ・ア・サウンド』『ザ・ニューヨーク・タイムズ・エッセンシャル・ライブラリー:ジャズ』等を著している。ニューヨーク市マンハッタン在住。

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