■誤解(2)つければすぐ聞き取れるようになる

 視力が悪い人が眼鏡をかけるとすぐに見えるようになるイメージで、補聴器もつければすぐに聞こえるようになると思っている人は多い。しかし、そうではない。音や言葉は耳から聴神経を通して脳で聞き取っており、聞こえない状態に慣れてしまった脳はすぐに改善しない。脳を、補聴器の聞こえに慣らすためのトレーニングが必要になる。

 ひと言で「難聴」といっても、聞こえない音の大きさや高さは人によって異なる。そのため、まずはその人の聴力に合わせて補聴器を調整することが必要だ。しかし、正しく調整した補聴器でも、「つけてすぐ快適に聞こえることはありません」と新田医師は言う。

 正常に聞こえている人の脳は、つねに音の刺激を受けて活発に働いている。しかし、聞こえが悪い人の脳は、音の刺激が少ない状態が続いているため、静かな状態に慣れた脳に、補聴器によって急に大きな音が入ると「うるさい」と不快に感じてしまうのだ。補聴器を最初に装用したときにうるさく感じるのはこのためだ。

「脳を補聴器の聞こえに慣らすためのトレーニングといっても、特別なことをするわけではありません。必要なことは、ふつうに生活しながら一日中補聴器をつけ続けること。そして補聴器をつけた状態で音を聞いたり、会話したりすることを少なくとも3カ月続けることです。最初の1カ月がいちばんつらい時期で、その時期を乗り越えられるかどうかが補聴器を使い続けられるかどうかの分かれ目といえるでしょう。最初はうるさくても、使い続ければ必ず慣れます。聞こえるようにするためにはあきらめずにトレーニングを続けることが大切です」(同)

■誤解(3)聞こえが改善しないのは、不良品、あるいは安物だから

 前述のように、補聴器を買ってつけただけでは聞こえは改善しない。

「聞こえないのは補聴器が不良品だから、あるいは安物だからと思い込み、いくつも補聴器を購入してしまう人もいます。でも、聞こえが改善しないのは、補聴器そのものが悪いからではありません。補聴器の調整がきちんとできていないか、トレーニングが不十分なため。あるいはその人の聴力に合っていない補聴器を購入してしまった可能性もあります」(同)

 どんなに良い補聴器を購入しても、その人の聴力に合わせて適切に調整されていなければ適切な聞こえは得られず、一定期間のトレーニングをしなければ快適に聞こえるようにはならない。補聴器の調整が正しくできているか、補聴器によって必要な聞こえが補えているか、トレーニングの成果が出ているかなどを確認するためには、医療機関で補聴器を装用した状態で音や言葉の聞き取りを調べる「補聴器適合検査」をおこなう必要がある。

次のページ