写真左から佐伯秀久医師(日本医科大学病院、皮膚科教授)、中原剛士医師(九州大学病院、皮膚科准教授)
写真左から佐伯秀久医師(日本医科大学病院、皮膚科教授)、中原剛士医師(九州大学病院、皮膚科准教授)

 アトピー性皮膚炎の大半は子どものうちに治る。だが、大人まで持ち越すと治療に手を焼くこともある。治療の要はステロイド外用薬。これを適切に使うことで症状をコントロールし、よい状態を維持する。

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 アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹を主症状とし、悪化と改善を繰り返す病気だ。湿疹は、顔や首、手足の関節部、体幹など全身に、左右対称に出るという特徴がある。患者には同じ病気の家族がいたり、本人が気管支喘息やアレルギー性鼻炎・結膜炎など、ほかのアレルギー疾患を併せ持っていたりすることも多い。

 この病気は一般に、乳幼児期に発症し、成長するにつれて治っていくという経過をたどる。しかしなかには、症状が続いたまま大人になる人や、いったん治ったのに成人後に再発する人がいる。

「アトピー性皮膚炎は成人の3~5%にみられます。その多くを占める20代と30代は、約3割が中等症以上です。中等症以上は継続的治療が必要な場合が多く、学業や仕事に集中できないなど、生活面に支障が出ることも少なくありません」

 と日本医科大学病院皮膚科教授の佐伯秀久医師は話す。この記事では成人のアトピー性皮膚炎を扱う。

 そもそもなぜアトピー性皮膚炎になるのか。発端は、皮膚のバリア機能の弱さにあるとされる。バリア機能とは、体内の水分が蒸発するのを防いだり、外界からアレルゲンなどの異物が侵入するのを防いだりする働きのことだ。

 皮膚は二層構造になっており、外側を表皮、内側を真皮という。正常な皮膚は、表皮の細胞が規則正しく並び、表面は皮脂膜で覆われている。これがバリアになるわけだ。

 しかし、アトピー性皮膚炎の皮膚は、表皮の細胞間に少し隙間ができ、表面を覆う皮脂膜も不十分だ。そのため、皮膚はカサカサしているし、異物が侵入して炎症を起こしたりする。

 炎症が続くうちに、本来は真皮の中にとどまっているかゆみを感じる神経の先端が表皮に伸びてくる。すると、汗や紫外線、衣服のこすれなどのささいな刺激にも、強いかゆみを感じるようになる。だからといってかくと、皮膚が傷ついてバリア機能はより低下するという悪循環に陥る。

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