「腰の痛みが治らない。仕事柄、耳も心配です。体力的にいつかバラードしか歌えないときがくる。いずれはギター一本で静かに歌うスタイルにするつもりですが、がんばれるうちはがんばりたい」
時代を築いたパイオニアは、ほぼ独力で時代と老いに抗い、模索を続けている。苦労人というより求道者と呼ぶべきかもしれない。
ジュリーへの批判・誹謗中傷の声を一掃したのは、落語家の立川志らくだった。10月19日に出演した民放の番組でこう語った。
「アーティストはプライドで生きている。いろんな人が非難しているけど、文句を言えるのは当日のお客だけ。コメンテーターが文句言っているけど、おまえたち、アーティストの気持ちってわかってねえだろ、と。アーティストはものすごいわがままな人間。それでも魅力がある」
立川談志が生前、「今日はやらねえよ」と言ってドタキャンした例も挙げ、「それでも愛された」と。さらにツイッターで「良い悪いなら、ジュリーが悪い。でもこんな事で彼を抹殺するな」とたたみかけた。この後、松本人志やダイアモンド☆ユカイらからジュリー擁護の発言が相次ぐ。
音楽誌「BURRN!」の広瀬和生編集長は言う。
「洋楽ではドタキャンはよくある。編集部内で『なんでこんな大騒ぎに?』なんて話をしていました」
ミュージシャンの都合で急に来日が中止されたこともあるし、88年のガンズ・アンド・ローゼズ、98年と06年のマイケル・シェンカーのように数曲演奏しただけでメンバーが突然帰ってしまった例もある。
それらは“伝説”や““武勇伝”として語り草となるが、人気を落とす理由にはなっていないという。
「音楽を愛するというのは『非常識』の肯定なんです。常識の世界にしか生きられない僕らは、自分たちにはできない非常識なパフォーマンスをミュージシャンに求めている。彼らを常識の枠にはめ込んではいけないんです。ジュリーの件で、ミュージシャンへのリスペクトが低い発言が目立ったのが残念です」
定刻に開演し、ヒット曲を中心に約20曲をミスなく演奏し、振付師のレッスン通りに踊り、舞台監督と打ち合わせた通りにしゃべり、アンコールにも必ず応える……すべてが予定調和のコンサートがどれほどのものか。表現者も生身の人間だ。ドタキャンも含め、何が起きるかわからない――そんな緊張感もステージの魅力の一つではないか。(本誌・佐藤修史)
※週刊朝日 2018年11月16日号を加筆