そんな自薦型が通用する音楽や銀幕の世界とは違い、他薦型スタンスを開放しないと存在できないのがバラエティを主としたテレビの世界です。現在のテレビ界で確固たるオバさんポジションを確立している方と言えば、かつてはトップアイドルだったにもかかわらず、さしたる断りや説明も必要としない安定のオバさん感を醸す榊原郁恵さん。自虐が他薦感情を凌駕する希な例である島崎和歌子さん。他薦と自薦(需要と供給)の利害関係が見事に一致しているRIKACOさん。さらには『あの美女をオバさん扱いする』という男たちの禁断の快楽の象徴を担っている宮崎美子さんなどが君臨しています。

 そして最近、これまでにないポジションを築こうとしている人がいるのにお気づきでしょうか? 木村佳乃さんです。誰も木村佳乃をオバさん扱いする気なんてなかったのに、バラエティやCMでの彼女の自薦型オバさん度は相当なものです。言うならば松田聖子・吉永小百合側の人が、ある日突然こちらの世界に降りてきて、サラッとオバさんをやってのけている感じ。彼女ならではの余裕な環境も相まって、嫌味も必死さもなく、それでいて妙なありがたみすらあります。『褒め殺し』という言葉がありますが、佳乃さんのオバさんアピールはまさに『自虐殺し』です。

週刊朝日  2018年11月9日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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