始まりました。課題曲は『ふるさと』(作詞・高野辰之)。♪うーさーぎ、おーいし、かーのーやーまー……声変わり完了の子もいれば、まだ女子みたいな声の子も……。それらが入り交じって、上手さにばらつきが。なんか胸がざわつくハーモニーだ。課題曲って、当たり前だけど全クラスが歌うのね……。3回目まではなんとか平静でいられたけど、だんだん「お前ら、ほとんど23区内で生まれたくせに、なにが『小鮒釣りし、かの川』だよ。釣ったとしても市ケ谷の釣り堀だろがっ!」とおじさんは心がささくれ立ってきました。すまん、少年たち。

 自由曲。今は『大地讃頌』とか『気球に乗ってどこまでも』じゃないのね。SEKAI NO OWARIの『RPG』、秦基博の『ひまわりの約束』……J−POP! おじさんは『RPG』聴いているとき、ズーッとベッキーの謝罪会見が頭に浮かんでいました。それはゲス極。酒毒は恐ろしい。

 長男クラスの自由曲はスピッツ『空も飛べるはず』(作詞・草野正宗)。お、いいね!『白線流し』! 酒井美紀! 目の前には男子のみ! でもかまわんよ! なかなか上手い。「男子の声もいいもんだなー、こういう『インプット』もありだな」と聴き入っていたら……サビの♪君とでーあーった、きーせーきがー……で、突然クラス全員が肩を組んで横揺れし始めやがった……。う~……酔う……あ……もうダメ。私は中座してトイレへ。早くも『アウトプット』完了。

 結論。男子の合唱もなかなかよいが、酔っぱらって文化祭に行ったらダメ。あと事実でもこんなオチはダメ。

週刊朝日  2018年11月9日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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