もし、あのとき、別の選択をしていたなら──。ひょんなことから運命は回り出します。人生に「if」はありませんが、誰しも実はやりたかったこと、やり残したこと、できたはずのことがあるのではないでしょうか。昭和から平成と激動の時代を切り開いてきた著名人に、人生の岐路に立ち返ってもらい、「もう一つの自分史」を語ってもらいます。今回は作家・志茂田景樹さんです。
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子どもに絵本の読み聞かせをする活動を始めてから、もう19年になります。ボランティアメンバーで「よい子に読み聞かせ隊」を結成し、全国をまわっています。もうすぐ2千回を数えます。
きっかけは書店でのサイン会でした。「奇抜なファッションの志茂田景樹」を見たくて、それなりの人数が集まってくれる。ただ、僕のトークが終わるとスーッと帰っちゃって。
博多のデパートの書店で行ったとき、隣がオモチャ売り場だったこともあって、親子連れが多かったんです。ふと思い立って、書店の方にお願いして、絵本を持ってきてもらい、『三匹のこぶた』と『赤いろうそく』を読んでみた。すると、小さな子どもたちが目を輝かせて、じっと聞いている。終わってから、子どもがわざわざ僕のところに来て、「面白かったよ」「また来てね」って言ってくれたんです。お母さんたちからも、感謝されました。そんなこと初めてで、ビックリするやら感激するやら、僕自身がハマっちゃったんですよね。
自分の子どもが小さかったころは、読み聞かせをしてあげたことはないんです。家にほとんどいませんでしたから。息子たちにちゃんと接してこなかったという、ある種の自責の念があるのかもしれない。
僕がマイホームパパだったら……悪くないなあと思うこともあるけど、志茂田景樹という作家としては、やっぱりこの人生しかなかったんだと思います。自分自身もどこか物足りなさを抱えることになるし、作品もつまらなくなっていたでしょう。