気心の知れた仲間であり、お互いに信頼を置いているからこそ可能なことだ。技術面など曲全体の完成度の高さよりも、その日その時その一瞬にしか得られない偶発的な演奏の成果を重視してのことらしい。

 シャッフルのリズムに手腕を見せる伊藤、独特の跳ねるフレージングを聴かせる岡部の貢献は大きい。4人の演奏に奥野真哉がピアノ、オルガンなどのキーボードをダビングしている。

 アルバムの1曲目はYO―KING作の「メロディー」。早口で歌詞をまくしたてる字余り調のフォーク・ロックだ。かつて吉田拓郎がボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』時期の曲を下敷きにしたのを思い起こさせる。最初は“退屈”をテーマにしながら、話が広がり、当人自身も“なんだかよくわからなくなった”と歌う、人を食ったような歌詞の展開だ。

「トーキングソング」は桜井が手がけた曲。ニューオーリンズのR&B風の演奏をバックに言葉以上に“目”や“手”“間”が真意を雄弁に物語るコミュニケーションを考察した歌だ。

「ライダースオンナ」はワイルドなスライド・ギターをフィーチャーしたスピーディーなR&Bベースのブギ・ナンバー。ライダースとは革ジャン、つまりタイトルは袖を通さずに革ジャンを肩掛けにした女性のことだが、YO―KINGが思いついたことを書き並べた話の展開は理解し難い。

「Z」は、桜井によるロカビリー・スタイルの演奏をバックに、初めてマイカーのセダンを手に入れた昔、“いつかは Z”と、憧れたクルマの話を歌っている。

「手ぶら」はスティール・ギターやホンキートンク風のピアノによるカントリー調の牧歌的な曲。スマホ以外は手にするものなし、という手ぶらの気ままな旅を歌っているが、曲を書いたYO―KINGはふだん、“断捨離”とは無縁な物持ちだと明かしている。

「ギター小僧」は、桜井のギターをフィーチャーした演奏曲で、サーフ・ギターを基本にしながら、時にポップなフレーズを織り込んでいる。

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