あと台風の思い出といえば、私が大好きだった学研まんがの『できるできないのひみつ』です。主人公は「なんでもやってできないことはない!」という信念を持つ小学生のやっ太くんと、猪突猛進のやっ太くんにいつも「そんなこと、デキッコナイッス!」と反論する陽気なアルゼンチン人・デキッコナイス。この二人が世の中の可能・不可能を科学的に検証するのですが、『台風を止めることはできるか?』という回がありました。

 やっ太くんが「高い塀をつくる」「ドライアイスを投下して凍らせる」「ミサイルを撃ち込む」など子供らしいパンチの利いた台風防止策を提案すると、デキッコナイスは「デキッコナイッス!」と科学的な論証を挙げて完全否定。イライラをつのらせたやっ太くん、何を言うかと思えばついには「だったら台風の目に核爆弾を落としてやればいいんだよっ!!」と独裁者のごとき血眼で、戦闘機の操縦桿を握ります。そんなやっ太くんを必死で止めるデキッコナイス。漫画とはいえ、核兵器をすぐに支度できる小学生に立ち向かうネガティブ思考のアルゼンチン人。デキッコナイスを応援せざるを得ません。結局、「やはり台風には勝てませんな」的結論だったと思いますが、妙に記憶に残る名場面でした。

 そんなふうに『台風』について考えていたら、昨夜は「卵からかえったブルーシートを育てる」夢を見ました。育てていくと、「ブル子」は手が生えてきて、本弁で、空を飛びます。なんだ、水木しげる先生の「一反もめん(青)」じゃねぇかな。

週刊朝日  2018年10月12日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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