

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「台風」。
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今年も多くの台風が日本列島に甚大な被害をおよぼしました。まずは被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。新幹線から大阪の街を眺めると、屋根をブルーシートで覆った家がまだ多いのがわかります。ブルーシートって奴は万能で、無いとかなり困るんだけど、チラリと視界に入っただけでなんか憂鬱でささくれだった心持ちになりますね。あんなに頑張ってるのに、ブルーシート……名前も寂しげだし、ブルーシート。
『ドラえもん』に「台風のフー子」という回がありました。「フー子」は『卵からかえった台風の赤ちゃんをのび太がペットとして育てる』という斬新を通り過ぎた藤子・F(ファンタジー)・不二雄的物語です。
不謹慎を承知で言えば、子供のころは状況によっては台風を心待ちにしたものです。特にマラソン大会当日に台風上陸予報がバッチリはまったりした日にゃガッツポーズ。でも、あいつら気まぐれですから、急にスピードアップして太平洋側に逸れて温帯低気圧になりやがる。
高2の時は台風一過のカンカン照りのなか、10キロマラソン。あまりの暑さで渡良瀬遊水地の土手にゲロを吐きましたよ。俺にもフー子がいたらなぁ……とえずきながら口をゆすいだっけ。
やはりF先生も締め切りに追われ、「自分の言うことをきく台風があれば、出版社や原稿の催促に来る編集者をはるかかなたまで吹き飛ばしたりできる!」と夢想した結果の「フー子」だったのでしょうか。
結局、フー子は日本列島に迫る巨大台風に体当たりをして、台風もろとも消滅し日本を守る……という感動的なお話に落ち着きます。神保町の小学館社屋は吹っ飛ばなかった。よかったよかった。