「漢方は老化を進めないようにするだけでなく、進んでしまった老化を少し巻き戻し、かつその状態を保つくらいの力はあると考えています」
漢方は、3千年の歴史がある中国の伝統医学がルーツ。6~7世紀に日本に伝来し、日本の風土や日本人の体質に合わせた「日本漢方(和漢)」として発展してきた。
漢方では独自の理論と診察方法を用い、患者に合った漢方薬を処方する。漢方薬の原料は、植物や動物、鉱物など自然界にある生薬。原則、複数の生薬を組み合わせて一つの処方が成り立っている。たとえば風邪薬としておなじみの「葛根湯(かっこんとう)」は、7種類の生薬(葛根、大棗=たいそう、麻黄=まおう、甘草=かんぞう、桂皮=けいひ、芍薬=しゃくやく、生姜=しょうきょう)を配合したもの。岡本さんが服用した「補中益気湯」は、黄耆(おうぎ)や人参(にんじん)など10種類の生薬で構成されている。
「西洋薬は単一成分でできているので、一つの病気あるいは一つの症状に薬理作用を発揮します。だから感染症の原因菌を殺す抗菌薬のように、ターゲットを絞った治療に適しています。一方、漢方薬は構成している天然生薬の一つひとつにいくつもの成分が含まれ、さらにそれらが合わさることで精神も含めてからだ全体をいい状態に調整してくれる薬。その結果、さまざまな不具合が改善されるのです。老化がベースにあってあちこちに不具合が現れる『高齢者の治療』は、漢方の得意分野と言えるでしょう」(小田口医師)
漢方理論では、加齢による衰えを「腎虚(じんきょ)」と捉える。「腎」は腎臓ではなく、生命力を示す概念だ。年を重ねるにつれ生命力が低下し、消化管の機能や精神機能が落ち、足腰の筋力が衰え、血管が硬くなる。
「腎虚は便利な言葉で、歯や骨がもろくなることや、生殖機能の低下、泌尿器の不具合など加齢によって衰える現象がすべて含まれています。腎虚に傾いた体を立て直すオールマイティーな処方が『八味丸(はちみがん)』や『六味丸(ろくみがん)』です」(同)