沖縄国際大の佐藤学教授(政治学)は「今回は、簡単ではないと思う」と懐疑的な見方をする。
2月の名護市長選でオール沖縄の現職稲嶺進が敗れたことを受け、佐藤は地元紙にこんな寄稿をした。
《県民は、本来、誰も米軍基地など望まない、ということが暗黙の了解になってきたが、それも若年層ではもはや違うのではないか》
《(基地建設への)反対運動(こそ)が地域を分断すると敵視し、積極的に米軍基地に寄り添う人々が多数を占めるようになっているのではないか》
メディアによる名護市長選での出口調査で「60代以上」と「50代以下」で正反対の投票傾向が見られたことによる推測だが、実際、佐藤は大学の自分の教え子にも、近年そういった印象を受けるという。
何よりも昨今、沖縄の若者は、驚くほど地元の歴史に知識がなく、それゆえにネット上の「沖縄デマ」を簡単に信じてしまう傾向があるという。
「沖縄が米軍に統治された時代があることは、さすがにぼんやりと知っているのですが、本土復帰運動があったことなどは、知らない学生が多数派です」
さまざまな苦難をともに体験した意識を持たずして、アイデンティティーの結束は生まれるのか。この「世代的な溝」は旧世代の多くが思い描く以上に深刻だ、と佐藤は強調する。
私は過去3年余り沖縄取材を繰り返す中で、対本土の被差別体験やコンプレックスについて、特に若者にはそうしたネガティブな意識がほとんどなくなった、と聞かされてきた。そして、この「劣等感の消滅」の時期を示す意味で、「安室奈美恵以後」という言葉を何回か耳にした。具体的には、90年代を指すのだろう。
そうした新世代の変化を念頭に置いてか、知事選告示日、自民系候補の佐喜眞や応援弁士らは「夢の持てる未来」を繰り返し強調し、辺野古問題への言及はほぼなかった。
歴史体験に基づくアイデンティティー。翁長の後継者は新しい手法でその求心力を示せるのか。あるいはその感覚は高齢者だけのものに縮小してゆくのか。今回は、そういった民意の動向がカギを握りそうだ。
※週刊朝日 2018年9月28日号