人生100年時代、望む、望まないにかかわらず最後はおひとりさまになる可能性は極めて高い。一人でいる期間をどう自分らしく過ごすかを考えたときに必要となるのが、人に頼らず生きていく“ひとり力”だ。そのコツを紹介する。
東京都在住のシンイチさん(68)は、9年前に5歳下の妻を病気で亡くした。子どもはおらず、妻の両親と暮らした3階建ての一軒家を売却し、現在はマンションで一人暮らしだ。
かつて喫茶店を開いていたこともあって、料理はお手のもの。最近は健康を気にかけ、野菜をできるだけとるようにしている。洗濯も掃除もまったく問題なし。共働きだった妻と家事を分担していたからだ。
一日の終わりには近所の飲み屋へ。常連客には顔なじみも少なくないが、おしゃべりをするわけでもなく、一人酒を楽しむ。
「もともと、人と深く付き合うのが下手なんでしょうね。こういう距離感が自分には合っています」
そう笑うシンイチさん。まさに“ひとり力”が身についている例だろう。
高齢者が長生きするようになった今、老後に一人で生きていくための力をつけることは、もはや必須。定年後の健康・人間関係の変化として特筆すべきは、60代で配偶者と死別・離別で一人暮らしになる人が増えることだ。高齢者こそ、一人暮らしへの備えが必要ということだろう。
それは内閣府の高齢社会白書(平成30年版)を見ても明らかだ。65歳以上の高齢者のいる世帯は2416万5千世帯で、このうち単独世帯は655万9千世帯。全体の27.1%にものぼる。
一人暮らしの高齢者数は年々増加し、1980年には男性が約19万人、女性が約69万人、65歳以上の人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%だったが、2015年にはそれぞれ約192万人、約400万人になった。割合にすると13.3%、21.1%にものぼる。増加の傾向は今後も続くと予測されている。
「高齢者の一人暮らし」というと、孤独死、孤立死などネガティブな印象がつきまとう。だが、実際はそうとも限らないようだ。
『老後はひとり暮らしが幸せ』などの著書がある医師の辻川覚志さんは、大阪府門真市の住人と、辻川さんのクリニックを受診した60歳以上の男女570人にアンケートを実施。生活満足度や健康意識、悩みの程度、家族構成などについて聞いた。
その結果、家族との同居者と比べて、独居者のほうが満足度が高いことがわかった。
「なぜ一人暮らしの高齢者のほうが満足度は高いのか。結果を分析してみると、どうやら自由に生きられる力、つまりひとり力がついているという要素が大きく影響していると考えられるのです」(辻川さん)
家族と暮らす高齢者は、子どもや孫と接して楽しい面がある一方、周囲のペースに合わせられない、気を使うといった人間関係のストレスを抱えやすい。それが結果的に満足度を下げる要因になっている。対して、一人暮らしになると、何でも自分で対処しなければならないが、家族の影響を受けず自分のペースで過ごせる。これが一人暮らしの満足度を上げていると、辻川さんは推測している。
「健康で元気な高齢者だけでなく、通院や介護などが必要になった状態でも、一人暮らしのほうが同居より満足度は高く、年代別でも、90歳以上を除いたどの年代も一人暮らしのほうが満足度が高くなっていました。一方、お金のあるなしと満足度との間には相関関係が見られませんでした」(同)
いくつになっても、ひとり力を身につけていれば満足する生き方ができるのだ。そのコツや具体策をまとめた。