

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「サービス」。
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中年になると、かえっていろんな『サービス』が重たい。
たとえば、安いとんかつ屋の「ご飯大盛り・キャベツおかわり自由」。もうご飯は少なめでいいんです。注文時に「ご飯半分で」って言ってるのに、運ばれてきたのは、どう見ても軽い中盛りだったり。キャベツの入ったボウルを持ってくる店員。「じゃあ、ちょっとだけ」と言ってるのに、トングで特盛り。かつ一切れのために残してあった胃の空きスペースに、先客がソースまみれで座り込みです。
飛行機のドリンクサービス。ペットボトル持ってても、ついコンソメスープを頼んでしまう敗北感。美味しいけど、今の俺には要らないスープが手元に。手荷物を座席下に置いてると、わざわざCAさんが、汚れないようにと「手荷物を入れる袋」を持ってきてくれた。「必要ないけどなー」と思いながら袋に詰めるが、サイズがピチピチで入れるのにてこずる。そのせいでコップが倒れ、残ってたスープがこぼれました。袋があって結果オーライだったけど、そもそもその袋、俺にはなくていい。
ここのところ、「独演会で落語を何席やるか」に悩んでます。主催者から「二席で」とか「三席で」と言われればその通りにやるのですが、よくあるのは「師匠におまかせします。終演時間が延びてもかまいません」というやつ。
私はだいたい三席やってしまう。持ち時間をちょっとオーバー。すると「いやー、『サービス』たっぷりでありがとうございましたっ!」みたいな反応です。別に『サービス』じゃない。二席でお客を納得させる自信がまだないから、必ず鉄板のネタを一つやってしまうのです。正直、それは『保険』。たっぷり三席の独演会は「お客さん、胃もたれ気味かもしれんなー、申し訳ない……」と思いながらやってるのです。中には「おいおい、一体いつ終わるんだよ……」と私の『サービス』に耐えてる人もいるかもしれない。申し訳ない。だから決して『サービス』ではなく『保険』なの。某先輩は、地方の落語会で五席やったらしい。終演後はお客からの質問コーナー・握手会。先輩は「これくらいやればお客も満足だろう!」と鼻息を荒くし、お客は虫の息だったという。サービス精神の塊ですが、塊もぶつかりどころが悪いと怪我をします。ちなみに質問は出ず、握手会は手に力の入らないお客ばかりだったとさ。