「20人以上の殺人が裏付けられれば、国内の犯罪史上もっとも多い毒殺事件となる」(同前)

 ここまで捜査が長引いた理由について、捜査関係者はこう明かす。

「発生直後から重要参考人としてマークし、早々に事情聴取を始めていたが、決定的な証拠がなく、身柄を取れなかった。鑑定で久保木容疑者の看護服のポケットからヂアミトールの成分が検出されたのが、16年の暮れ。ただこれもシフトに入っている人間だから決定的ではなかった」

 同院で48人の不審死が続いたのは、同年7月1日から2カ月半の間――。

「逮捕の1週間前ぐらいに、そろそろだと話が入ってきました……。でも、犯人が捕まっても、もやもやは晴れません」

 こう話すのは、横浜市内で暮らす女性Aさん(50代)だ。Aさんの父親(90代)は16年8月末に旧大口病院の4階の病棟で亡くなった。48人のうちの一人だった。

 入院時には「年内は頑張るよ」と話していた父親。手足が固まらないようにリハビリの予定も入れていた。だが、入院して1カ月あまり、容体が急変した。

 8月下旬のある日。いつもどおり見舞いを終えて自宅に戻ったAさんの携帯が鳴った。通知された番号は、病院のものだった。

「慌てて病院に戻ると、父はもう亡くなっていました。不整脈が出て、呼吸が弱くなって止まったと、主治医から説明を受けました」

 父親の死因について、Aさんが異物混入の疑惑を払しょくできない理由の一つが、主治医の言葉だった。

「『私もびっくりしました』と言うんです。当時は医師が驚くほどの急変だったのだろうと納得しましたが、今思うと、何かあったのではないか、と」

 さらにAさんが驚いたのは、父親と再会した場所だった。そこは4階にある「個室」だった。本来は入院患者が使う場所が、霊安室代わりに使われていたのだ。Aさんによると、実はこの日、父親を含めて3人が死亡していた。
 
「安置する場所がなかったのか、次の患者さんを受け入れるために、ベッドを空けなければならなかったのかわかりません。ですが、違和感は覚えました」

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患者の家族にとっても不思議な印象の多かった旧大口病院